弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年9月 4日

メモリアル病院の5日間

アメリカ

(霧山昴)
著者 シェリ・フィンク    出版 カドカワ
 
今から10年前の2005年8月、アメリカは、ルイジアナ州のニューオーリンズを襲った強大なハリケーン「カトリーナ」によって、メモリアル病院が孤立したとき、入院患者がどうなったのか。患者の死亡を早めたとして逮捕・起訴された事件の顚末を追った本です。
 ハリケーンが上陸して以来、ニューオーリンズは理性をなくした野蛮な環境に変わっていた。
 ニューオーリンズ市が避難命令を出しても、貧しい黒人の多くは車をもっていなかった。もっていたとしても、早々に交通渋滞にはまってしまった。郡刑務所の職員も、囚人を避難させる予定はないので、例外に指定された。囚人も職員も避難が許されなかったということですね、、、。
 ついにハリケーンが襲来し、メモリアル病院の周囲は水に浸ってしまいます。
 沿岸警備隊のヘリコプターで患者を搬送するのですが、メモリアル病院の患者は187人から130人に減っただけ。スタッフ460人、家族447人、ライフケアの患者とスタッフ52人が残されている。
 病院のトイレは不快な場所と化していた。電気が止まり、非常用発電もうまく作動しない。うだるような暑さのなかにおかれた。
 デマが横行した。近隣の強盗団が病院を制圧し、薬局から薬を強奪しているという連絡を受けて警察官がやってきた。来たのは警察のSWATチーム。もちろん、真っ赤な嘘。早々に退散していった。
 患者はやせ細り、裸に近い姿で横になっている。病院の温度は38度をこえていた。服を着ていないのは少しは身体を涼しく保てるのと、排泄物を手早く処理できるから。
 医師と看護師が、9人の生きている蘇生禁止患者に静脈注射しているのを見た。
 電源が喪失し、吸引装置が動かなくなると、医療スタッフは、気道から効果的に分泌物を吸引することができない。患者を楽にするため、鎮静剤のアチバンとモルヒネが投与された。
  2階にいる患者が死んでいき、何が起きているのか噂が広まるにつれ、安楽死は間違っていると考える看護師が増えてきた。 
 結局、ニューオーリンズでは、カトリーナ襲来後、すぐに入院患者、貧困層、高齢者を中心に1000人以上が死に、その後も、ストレスや医療手当を受けられずに死んだ人は少なくなかった。
 しかし、公立チャリティ病院では、わずか3人しか死者は出なかった。スタッフが逃げ出さず、患者のケアを続けたから。チャリティー病院は、病気の悪い患者から優先して助けた。チャリティー病院は、低所得層の多い地域にあり、スタッフは混乱や危険に慣れていて、たくましかった。スタッフは、非常時でもルーティンを守り、シフトを維持し、ケアを忘れず、パニックを抑えた。あらぬ噂の拡散も防いだ。なーるほど、やはり、日頃が大切なのですね、、、。
 結局、メモリアル病院で安楽死をもたらしたとした医師は、大陪審で不起訴とすることになった。
アメリカの医療制度の欠陥(問題点)が、事態を深刻にしたのではないかと私は疑いました。アメリカは日本のような国民皆保険制度ではありません。お金さえもっていれば、十分な医療を受けられる国ですが、お金がないと、アメリカでは悲惨です。そこにも「自己責任」という間違った原理が働くのです。
日本をアメリカのような、金持ちのみ栄える、軍事大国にしてはいけません。

      (2015年5月刊。2500円+税)

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