弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年8月21日
女たちの平安宮廷
日本史(平安時代)
(霧山昴)
著者 木村 朗子 、 出版 講談社選書メチエ
「栄花物語」によむ権力と性、というのがサブタイトルについている本です。
平安時代、女性は政治のうしろにいて、表舞台にあらわれていませんでしたが、その実、政治を動かしていたのは女性だった。それを実感させてくれる本でもあります。
平安時代の摂関政治の最大の関心事は、閨事(ねやごと)、つまり男と女の性の営みにあった。
摂政関白という地位は、天皇の外祖父が後見役になることで得られるものだから、大臣たちは次々に娘を天皇に嫁入りさせ、親族関係を築いていた。
摂関政治は、結果として、一夫多妻婚を必然とした。後宮に集う女たちは、天皇の籠愛をえるために、そして天皇の子、とりわけ次代の天皇の寵愛を得るために、次代の天皇となる第一皇子を身ごもるために競いあった。
摂関政治は男たちの権力闘争だった。そして、それを実際に動かしていたのは、いくつものサロンの抗争、女たちの闘争だった。そのことを細やかに伝える書物が藤原道長の栄華を描いた歴史物語「栄華物語」である。「栄花物語」は、物語の形式をとりながらも史書として企図されたものであった。
当時の女たちが漢字漢文を使わないのは、使えないというのではなく、知らないふりをすることが、女たちのたしなみであったから。その証拠に、「枕草子」にも「源氏物語」にも、漢詩が引用されている。
天皇を中心として宮廷において、多くの女たちが天皇の后候補として、あるいは女房として参内(さんだい)し、後宮を形成した。その後宮を支配するのは、当の天皇ではなく、摂関家であった。
天皇の系を存続させながら、そこに寄生することで、権力を得た摂関政治にとっては、性そのものが直截(ちょくせつ)に政治であった。
摂関政治においては、后の位を強化するより、むしろ、出産によって次の天皇を生み出すことに権力闘争の中心があった。天皇家との婚姻関係だけでは権力は生み出されなかった。天皇のこの誕生と闘争の地点をずらすことによってのみ、藤原氏は、家格として「正統」となりえた。
藤原氏だけが天皇の孫、つまり二世の女王と娶る(めとる)ことができた。藤原氏の優位性は、実質的な権力に依存しながら、天皇の皇女を得ることによって強化された。
天皇の父になることはできないが、天皇の母になることはできた。
そして、子育てをするのは、母親ではなく、雇われた乳母(めのと)であった。そうすることによって、母親をすばやく次の出産態勢に戻し、多くの子どもを抱えることを可能とした。
桓武天皇の詔以来、天皇の娘は藤原氏に独占的に与えられてきた。
後宮においては、誰の娘かということで女たちは序列化されていた。娘たちの入内(じゅうだい)は家格によって序列化されており、その家格は、天皇の娘がどのように分配されているかという問題にかかわっている。
天皇の子でありながら、臣下である藤原氏は、政界で優遇されることによって、その不均衡を埋め合わされていた。他方、藤原氏は、外威という形でしか天皇の系にかかわることができない。
摂関制度という、藤原氏に有利な制度は、律令に定められた親王優位の制度をいかに骨抜きにするかということに賭けられていた。
次代の天皇を争う摂関政治の制度は、立后を切り札としてしまいはしなかった。天皇が一人であるのに対して、后は複数存在したからだ。后になること自体は、権力奪取に実質的な意味を持ち得なかった。
后のなかの后たるものは、母であらねばならない。国母(こくも。天皇の母)のほうに価値が転換された。
権勢家は、娘が天皇に入内し、男子を生んだとなれば、いきおいその男子の即位を急ぐ。
父と子が、同じ女性とのあいだに子をもうけるということは、正妻格にはありえないが、女房格にはあった。
女房の性は、正妻とちがって、囲いこまれているわけではなかった。だから、誰の子であるかは、父側にとって不確かな要素を常にもっていた。子の誕生には、不確かさが入り込んでいた。それは、一夫多妻的な関係が同時に一夫多妻的な関係であったからである。
平安時代の貴族政治を女性の視点でとらえ直している興味深い本です。
(2014年10月刊。860円+税)
夕方、外出先から戻って庭に出てみると、別の木にヒヨドリが止まってしきりに鳴いている。そこに幼鳥がいるようだ。鳥カゴを見るとなかは空っぽだ。
その木の下にいってみると、ヘビがいた。そしてヘビの腹がぷっくり太っている。あーあ、幼鳥は食べられてしまったんだ。親鳥は、それでも、夕方まで、木の上でずっと鳴いていた。
ヒヨドリは、ヘビを発見したとき、うるさく鳴きかわし、ついには人間にまで知らせて、何とかしてくれと言いたかったようだ。しかし、スモークツリーの木のある巣はとても高くて、ヘビをはたき落とせるような位置にはない。
結局、2羽とも幼鳥はヘビに食べられてしまった。残念だが、仕方がない。これも自然の植物連鎖だとあきらめるしかない。