弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年7月29日
ヒトラーと哲学者
ドイツ
(霧山昴)
著者 イヴォンヌ・シェラット 、 出版 白水社
ヒトラーは、1923年11月、ミュンヘン一揆に失敗し、逮捕・投獄される。国家反逆罪で有罪となり、1924年の春からバイエルン州にあるランツベルク刑務所で過ごす。
ところが、ヒトラーの部屋は高級食料品店の様相を呈していた。ドイツ中の支持者が貢ぎ物を送りつけていた。そして、看守からも優遇されていた。
ある女性からのプラムケーキの差入れに対するヒトラーのお礼状が紹介されています。
ヒトラーは学校時代の後半には、際立って能力に欠けると見なされ落第していた。ヒトラーは、学業に何の興味も示さない怠惰な生徒と思われた。
ヒトラーは、行動の人として刑務所に入ったが、出るときには「哲人指導者」だったと自分では考えていた。
ヒトラーは遅くに起床し、いつも怠けたり、うつらうつらして過ごした。集中して本を読むことが嫌いで、本一冊を読み通すのはまれだった。たいていは、本の出だしの部分を読むだけだった。
ヒトラーは貪欲で、意地汚いところがあった。むら気をおこさずに働くことができない。実際に、彼は仕事ができない。アイデアが浮かんだり、衝撃を受けたりはする。熱に浮かされたように、それを実地に移すことを命じるが、あっという間に取りやめにされた。ヒトラーには、持続的に辛抱強く仕事することが、何なのか分からなかった。
ヒトラーのやること、なすことは「発作」だった。ヒトラーの言う、子ども好き、動物好きは、ポーズにすぎなかった。
1933年に、ユダヤ系知識人を学問の世界から追放する布告が実行されたとき、ヒトラーたちはほとんど抵抗を受けなかった。抗議行動は、まったく起きなかった。なぜか?
多くのユダヤ人が追放されると、そのポストが空く、そこへアーリア系の大学人たちが、ハゲワシよろしく割り込んできたのだ。
ナチは、比較的少人数のはぐれ者集団から始まったが、ほどなく普通の学歴をもった人間がどんどんメンバーに加わるようになった。ときがたつと、大学人のほとんどがナチ化された人間になっていた。
ハイデガーのナチスに対する協力は、ヨーロッパ中の崇拝者たちを戸惑わせた。そして、ドイツ国内では、大きな影響力を発揮した。
カール・ヤスパースがハイデガーに「あんな無教養な人間にドイツを統治させていいものかどうか」と問いかけると、ハイデガーは、「教養など、どうでもいい。あの人物の素晴らしい手を一度見たまえ」と答えた。なんと非論理的な答えか・・・。
このハイデガーに、ユダヤ人の若き女子学生、アンナ・ハーレントも強く心が惹かれ、秘密の愛人となったのでした。
ハイデガーは、ヒトラーを礼賛した。ナチズム支持大会にハイデガーは出席して演説もしているのです。信じられない哲学者の堕落です。
ミュンヘン大学の哲学教授クルト・フーバーは1943年7月、ギロチンで処刑された。
学生を感化させることにかけては、フーバーに及ぶ者はいなかった。その一人がトップクラスの才媛ゾフィー・ショルだった。白バラ兄妹を感化した教授もまた、ナチスによってギロチンで処刑されたのです。
フーバーは、左翼でもなければ、ユダヤ人でもなかった。保守的なナショナリストだった。フーバーは、いかなる類の暴力も激しく嫌っていたし、ヒトラーをドイツ社会の価値観を破壊する者だととらえていた。
ハイデガーとは異なり、フーバーは、ヒトラーの話しぶりに惑わされることなく、そして大学にいる多くの同僚とは逆に、声を出した。フーバーがカントの講義をするのは、ヒトラーに抵抗せよと言う本当のメッセージを学生に伝えたかったからだ。
白バラは、哲学に強い関心をもった学生活動家が主体となった、結束の固い小グループである。白バラは勇敢であるとともに、非暴力を貫き、自分たちにできる唯一の手段は言葉でもって抵抗した。
クルト・フーバーが処刑されたあと、家族は遺族年金の支払いを拒否された。学生や友人たちが遺族へのカンパを募ったところ、ナチスは没収し、現行犯で逮捕した。そして、ギロチン使用料として、給与2ヶ月分に相当するお金の支払いを命じた。
ハイデガーは、戦後、サルトルの後援で返り咲いたが、戦前のナチス礼賛について、まったく反省を示さなかった。
ユダヤ人である、アンナ・ハーレントの葬儀は無宗教で行われた。
いろいろ、深く考えさせられる本でした。
(2015年4月刊。3800円+税)
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