弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年7月24日

帰還兵はなぜ自殺するのか

アメリカ

                               (霧山昴)
著者  デイヴィッド・ファンケル 、 出版  亜紀書房

 アメリカからアフガン・イラクへ戦争に行った兵士たち、小隊30人、中隊120人、大隊800人は、元気な人ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。悪霊のようなものにとりつかれずに帰ってきたものはひとりもいない。その悪霊は動き出すチャンスを狙っている。
 アメリカに戻ってきた元兵士の一人は次のように語る。
 ひっきりなしに悪夢をみるし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になって仕方がない。
200万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。アメリカに帰還したとき、戦争体験などものともしない者もいる。しかし、200万人の帰還兵のうち20~30%にあたる50万人の元兵士がPTSDやTBIを負っている。
PTSD・・・・心的外傷後ストレス障害、ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害。
TBI・・・・外傷性脳損傷、外部から強烈な衝撃を与えられた脳が脳蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引きおこす。
苛立ち、重度の不眠、怒り、絶望感、ひどい無気力。なげやりな態度・・・。
繰り返し外国の戦場に派遣された兵士は自殺しやすい。既婚兵士は自殺しにくい。
戦争のあいだ、毎日が同じように始まった。兵士たちは幸運のお守りをポケットに入れ、最後の言葉にまつわる冗談を言い合った。素早く円陣を組んで祈りあげ、最後の煙草を吸った。
防弾チョッキのベルトをきつく締め、耳栓をし、耐破損性サングラスを下ろし、耐熱性グローブをはめた。「出発」という号令とともに、ハンヴィー(アメリカ軍の装甲車)に乗り込んで進んでいった。道路の先で自分たちを待ち受けているのが何か、よく分かっていた。
兵士たちは、ハーレルソンのハーヴィーが宙に高く吹き上がり、火に包まれるのを見た。エモリーが頭を打たれて倒れ、自分の血にまみれていくのを見た。兵士たちが脚を失うのを、腕を失うのを、脚を失うのを、手を失うのを、指を失うのを、つま先を失うのを、目を失うのを見た。
次々に起こる爆発音を聞き、何十台ものハンヴィーが消えて、凄まじい炎の雲と化し、死骸へと変わるのを見た。そして、しまいには、兵士たちの大半がその雲に取り込まれてしまう。恐怖の瞬間に、雲に囲まれて何も見えないまま考えた。
自分は生きるのか、死ぬのか、無傷のままか、ばらばらになるのかと。やがて耳鳴りがし、心臓が激しく鼓動し、精神が暗黙に落ち、目には時折涙があふれてくる。
彼らは分かっていた。分かっていたのだ。それでも毎日、戦闘に出かけ、戦争がどのようなものが分かってくる。
 勝者はいない。敗者もいない。勇敢なものなどない。ひたすら家に帰るまでがんばり、戦争のあとの人生でも、同じようにがんばり続けなければならない。
アメリカからイラクへ侵攻した兵士たちの多くが貧困家庭出身の若い志願兵だった。ある大隊の平均年齢は20歳だった。そして、毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げている。自殺を企てた人は、その10倍いると推定されている。なぜなのか。
本書では、そのいくつかのケースを家庭訪問するなどして明らかにしています。
 経済徴兵制というのは、アメリカにならって、日本でも取り入れられる恐れがあります。
 自民・公明の安倍政権のすすめている戦争法案は必ず廃案にしなければいけません。
 日本の未来を担う若者から、その輝かしい未来を奪わないようにしましょう。あなたも、ぜひお読みください。
(2015年6月刊。2300円+税)

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