弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年7月19日

葬送の仕事師たち

社会

                               (霧山昴)
著者  井上 理律子 、 出版  新潮社

 人間の死にかかわることを仕事としている人たちの現場に出かけて取材した本です。その捨て身の現場取材のたくましさに圧倒されました。葬儀屋、遺体復元師、エンバーマー、火葬場で働く人々、そして現代的なお葬式のあり方を考える・・・。
 葬儀社への就職を目ざす2年制の専修学校があるのを初めて知りました。2年間の授業料は182万円(教材費は別)というのですから、安くはありません。
 今の日本のお葬式は昭和のはじめからのものなので、わずか90年の歴史しかない。
 その前は葬列があったし、参列者は白い喪服を着ていた。
 葬祭ディレクター技能審査(1級・2級)をパスした人が、全国に2万5千人いる。
 「村八分」のとき、許された「二分」は、火事と葬儀だった。
 エンバーミングは、アメリカで南北戦争(1861年~1865年)のとき、亡くなった兵士を遺体を遺族のもとに長距離搬送する必要があったことから始まった。今では、アメリカ、カナダで7割以上、ヨーロッパでも6割以上の遺体に施術されている。
 エンバーミングの費用は、搬送費をふくめて12万円ほど。
 葬儀業界の市場規模は、返礼品や運送・飲食費をふくめて1兆6千億円。
 お寺へのお布施は、地方だと20~30万円。東京では戒名代をふくめて60~70万円。
 エンバーミングの薬液は、防腐・殺菌・修復の三つの効果を狙っている。体の中のたんぱく質を固定し、まだつながっているアミノ酸の鎖の力を強める。
 日本で亡くなった外国人を母国に帰すためには、エンバーミングが必要なことが多い。日本には、3時間ルールがある。3時間内にエンバーミングを終えて、遺族に遺体を返すべしというルール。
 全国の火葬場は公設が95%。東京だけでは例外的に民営がある。
 欧米には、骨上げという習慣はない。遺族は2~3日後に、「灰」を受けとる。
 よくぞ、ここまで葬送の現場に踏み込んで調べあげたものだと驚嘆しました。
(2015年6月刊。1400円+税)

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