弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年6月26日

ライブ講義・集団的自衛権

司法

                              (霧山昴)
著者  水島 朝穂 、 出版  岩波書店

 この6月4日に開かれた衆議院の憲法審査会で、憲法学者が三人そろって安保法制法案は憲法違反だと断言したので、自民・公明の安倍政権は言い訳に終始するようになりました。
 合憲だという憲法学者もたくさんいる、そう言って安倍政権が名前をあげたのは、わずかに3人のみ。しようもない、おじさんたちが登場しただけです。すると、今度は学者が決めるのではない、最高裁が判断するのだと逃げます。では、最高裁が議員定数の不均衡を是正しろと言ったとき、政府は従ったでしょうか・・・。多くの学者が憲法違反と断言し、最高裁の言うことには従わないという権力者は、あまりにも立憲主義を無視しすぎです。
著者の語りは、いつものことながら明快です。
市民には、素朴な「疑」の心を大切にして問い続けること、「偽装」を見抜く知恵と「技」を磨くことが求められている。「疑の技」でもっとも大切なことは、「忘れない」ということ。
 著者は、佐藤優や木村草太の主張は誤りだとしています。
この二人は、昨年7月1日の閣議決定は、個別的自衛権の範囲をこえるものではないとしているが、間違いだ。過小評価ないし、過度の楽観論である。
 ある武力行使が、個別的自衛権にあたるか集団的自衛権にあたるかは、二者択一の関係にあり、双方にあたるということはありえない。
 徴兵制について、安倍首相は、「憲法上ありえない」と断言している。しかし、この言葉は、どこまで信用できるものなのか?集団的自衛権の行使は憲法解釈上許されないとして来た自民党政府の見解を一変させてしまった安倍首相の言葉を信用することは出来ません。あのときとは社会環境が変わったから・・・、と言って変更するのは簡単なことです。
 いま、むしろ日本は北朝鮮を脅している。「平和ボケ」より「軍事中毒」のほうがはるかに有害なのだ。私も本当に、そのとおりだと思います。
 いま、韓国や中国に観光旅行に行く日本人が激減しているそうです。なんとなく「怖い」という気分があるからです。でも、韓国や中国からは大量の観光客が来ています。日本は平和な国だと思って信頼しきっているのです。このギャップを、私たち日本人は一刻も早く解消する必要があると思います。
 自民・公明の安倍政権が、つくり出した「なんとなく、韓国も、中国も怖い」という皮膚感覚を一掃すれば、今の安保法制法案は、すぐにも吹っとんでしまうと思います。そして、平和憲法の意義を高らかに全世界へ発信すべきなのです。
(2015年4月刊。1800円+税)

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