弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年6月 2日

「働くこと」を問い直す

社会

                                  (霧山昴)
著者  山崎 憲 、 出版  岩波新書

 フォード・システムは、アメリカにおいて自動車の大量生産として確立した。
 一人の労働者が一つの工程でになう作業にかかる時間をタクトタイムと呼ぶ。現代で、もっとも生産性が高いとされる自動車工場のタクトタイムは50秒ほど。その作業を、人間が一日中、数百回くり返す。私には、とても耐えられません。
 アメリカで一般的なフォード生産方式では、職務が一人ひとりに固定され、重なりあうことはない。そこに労働組合も便乗していた。経営側にとって効率がよいだけでなく、労働組合にとっては、労働条件を引きあげる基準としても、都合が良かった。
 不良品は最終工程で取り除き、ベルトコンベアーの速度を上げて生産性を高めるという方法をとっていた。すべての工程に品質をチェックする機能をつけ加えようとするならば、一人ひとりの働き方を根本的に変えなければならない。それには、大きな痛みをともなう。
 日本的労使関係システムは、生産性運動、高度経済成長、春闘の三つを必要条件としたが故に、そのどれかが欠けたときには崩れてしまう弱さを内包していた。
 日本のホンダがアメリカに工場を作ったとき、すべての従業員を平等に扱う、役員と従業員の賃金格差を大きくしない、作業の業績が悪くなっても簡単に解雇はしない、労働組合はつくらせない、などなどだった。
 そのため、職務の範囲を広くして、従業員同士や部門同士の仕事を重なりあうようにする。チームワークを高めるため、教育訓練をする。そして、定期的に配置転換する。
 日本の自動車メーカーの成功の要因は、価格が安いというだけではなかった。燃費の良さ、価格の安さ、品質の良さが、日本の自動車メーカーの本当の競争力の源泉だった。価格の安さや品質の良さは、偶然の産物ではない。
 品質を高めることに全社を挙げて努力し、不良品の出る割合を下げることで、日本企業はコスト削減につなげてきた。
日本企業の強さは、働く一人ひとりが惜しみなく自分の能力を企業経営のために提供することにある。そのことを前提として、一人ひとりの仕事を他人とつなぎ合わせる。個の能力を高めるとともに、組織としても効率的に、かつ有機的に機能させるためだ。
 弁護士も多くは高給取りにはいりますが、その大半は夜遅くまで働いています。首都圏の弁護士について言うと、帰りは決まって終電車という人も少なくないのです。
 それはともかく、何のために、そんなにアクセク毎日、働いているのかを考え直させる本でもありました。
(2014年11月刊。780円+税)
 東京・銀座の映画館でイギリス映画「パレードへようこそ」をみました。
たまに、いい映画をみると、本当に生きていて良かったなと思います。人間同士の心の触れあいによる温かさを感じると、よーし、明日もがんばろうと思えるからです。
 舞台はサッチャー政権下のイギリスです(1984年)。炭鉱労働者がサッチャー政権の炭鉱閉鎖に反対してストライキを続けるのですが、4ヶ月目に入って展望を見出せません。そのとき、ロンドンのゲイの若者たちが、炭鉱労働者と連帯しようと考え、そして行動に立ち上がったのです。募金を届けようとすると、炭鉱の街の方でゲイへの抵抗が強く、なかなか受けとってもらえません。ついに、ひょんなことから連帯行動が始まります。
 実話にもとづく展開なので、痛快な場面があり、また挫折もさせられます。
 でも、最後には、大同団結を勝ちとることができるのです。
 権力に屈せずたたかう炭鉱労働者と、同じように権力に抗して自分たちの生きる権利を主張して行動するゲイとレズの人々が、一致点で街頭パレードをするラストシーンは、思わず涙があふれ出してくるほど、感動的でした。

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