弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年5月18日

新世界ザル(上)

サル

                                (霧山昴)
著者  伊沢 紘生 、 出版  東京大学出版会

 学者って、本当に偉いと思います。南アメリカのジャングルの中に入って、毎日、サルをじっと観察し続けるのです。すごいです。その大変な苦労のおかげで、居ながらにしてサルのことを知り、人間とは何者なのかを少しずつ理解できるのです。
 アマゾンのジャングルでの調査を30年も続けてきたということに、まず感嘆します。私も、いつのまにか弁護士生活40年を過ぎてしまいました。私も現役ですので、判決も勝ったり負けたり悲喜こもごも毎日を過ごしています。人間相手の仕事ですので、アマゾンのジャングルではありませんが、人間ジャングルの中でもがいているという実感はあります。
 新世界ザルは、熱帯雨林の樹上をもっぱらの棲みかとして、ゆっくり進化していった。ないし、長い時間をかけて森林の樹上になじみきってしまったサルたちだ。
 熱帯雨林こそ、サル類を誕生させ、進化させた元々の環境なのである。
ホエザルは、新世界ザルのなかでは、とりわけ神経質なサルである。人への警戒心も強い。林床からは決して見えない樹々の茂みに逃げ込んだら、1時間でも2時間でも隠れ続け、出て来ない。
 そのホエザルを著者は追い続けるのです。
 水平に延びるツタの中ほどで止まる。ホエザル8頭全員が身体を寄せあって、来た順に横一列に並ぶ。そして、次の瞬間、一斉に大量の小便をし、続いて大量の糞を排泄する。
 ホエザルは、早寝遅起のサル。朝8時過ぎに起き、夕方は、まだ森の中が明るい午後4時ころには寝てしまう。
 まさか、一日のうち16時間も寝ているなんて・・・。おどろきです。
 ホエザルは、移動ルートを3日から5日で一周する。かなり規則正しい生活を送る。
 ホエザルは大声で吠える。しかし、それ以外は、めったに鳴かない。お互いの毛づくろいをほとんどしない。
 ホエザルに表情の変化はほとんど見られない。喜怒哀楽が、表情から伝わってこない。
 ホエザルは葉っぱ食いの道を選んだ。葉を食べて生きるには、直接消化できないセルロースをバクテリアによって発酵させなければならず、そのぶん休む時間が長くなる。それに発酵によって熱が発生するため、体温調節からいっても、できるだけ緩慢に動くほうがいい。
 ホエザルのオスの寿命は、20年ほど。オスにとっては、生きのびるのも大変、中心オスになるにも大変、子孫を残すのも大変な社会だ。
 フサオマキザルは、新世界のなかで、これほど表情豊かなサルはいない。
 フサオマキザルは、介護サルとしても活躍している。手足が不自由で、車いす生活を送る人の日常生活を手助けする。フサオマキザルは、動物園では、最長47年も生きる。
 すごいですね。ずっとずっとアマゾンのジャングルで寝泊まりしていたなんて・・・。
(2014年11月刊。3600円+税)

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