弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年5月 1日
老人喰い
社会
(霧山昴)
著者 鈴木 大介 、 出版 ちくま新書
大変勉強になりました。振り込め詐欺(今では呼び名が特殊被害詐欺と変わったようです)が、こんなに高度に発達した詐欺集団による者だと知って、本当に認識を新たにしました。欺すほうの進化と、欺される側の一般国民と弁護士の認識は昔ながらのものでしかありません。その意味で、この本は消費者被害に関わる弁護士にとっては必読だと思いました。
昔、私は豊田商事とか海外先物取引による被害救済にあたっていました。欺す側の正当化論理は、世の中の眠っている資金をオレたちは活性化してやっているというものでした。
振り込め詐欺集団も、まったく同じ論理で自らを正当化しつつ行動しているのですね・・・。
お年寄りから老後のために貯め込んでいた大金を奪い去る当事者(若者)は、決して生まれ育ちの貧困が生み出した犯罪者だとは言い切れない。親の愛を十分に受けた者もいれば、大学教育を受けた者もいる。だが、それでも彼らは明確な敵対感情をもって、高齢者に牙をむく存在となった。なぜなのか?
特殊詐欺犯罪に手を染める若者たちは、夜露(よつゆ)の世代である。彼らは砂漠のなかで、夜露をすすって生きている。ところが、その横には、たっぷり水がたまった革袋をかかえた高齢者がいる。渇き切った若者たちは、血走った目で高齢者のかかえる水袋を奪い去ろうとする。
老人喰いをしている若者たちは、とてつもなく分厚い停滞感、閉塞感の雲を突き抜けた者たちだった。非常に優秀で、異常なほど高いモチベーションの持ち主だった。
振り込め詐欺の集団が活動するマンションに持ち込んでいいのは、タバコと現金、そしてケータイのみ。免許証とか自分名義のケータイなどは厳禁、マイカーやオートバイでの通勤も許されない。
毎朝、唱和される「御法度九ヶ条」。酒、薬、女、博打、喧嘩、他業、服装、家族、銀行。これは、詐欺の現場が警察の摘発を受けないため。
詐欺業界において、名簿屋の進化は著しい。警察署の生活安全課や行政の名をかたって電話をかける。高齢者の安全確認や社会的な調査業務のためといって電話をかけてくる。こんな電話には素直に応じてしまうのが普通の人だ。これは、下見調査と呼び、下見屋が業務委託を受ける。
詐欺のターゲットになりそうな高齢者は「下見」調査のすべてに非常に丁寧にこたえ、かつ訊かれてもいないことまで自発的に長時間にわたって話してくれる。
欺しの電話の手口は、問題を起こした息子役以外に二役が代わるがわる電話口に出ることで、ターゲットを混乱させる。お金が奪えないと判断した相手には、さっさと興味を失う。騙す側は、圧倒的に洗練されている。
詐欺集団は、徹底的に管理された高度な集団である。自分の役まわりの技術を徹底的に磨きあげている。そして、詐欺に関与する裏の名簿屋がいる。情報を強化した名簿によれば60%もひっかかる。
詐欺犯罪者集団のトップに暴力団が接近している。今、詐欺集団を完全に組織化しようとする動きがある。暴力団による系列化である。
彼らは、金主たちのお金をまとめ、詐欺に必要な設備、事務所や荷電するための通信回線、ターゲット名簿などを準備して、現場展開する。これが振り込め詐欺の裏側の状況です。 1店舗9人体制。2、3人一組で、役割を分担して電話をかける。話す。切られる。かける。話す、切られる。これを一日中、やるのです。まさに非人間的な作業です。
老人は、日本社会が今後発展しようとするのに対するガンだ。だから、大金を奪ってもいいというのです。
あなたも、ぜひお読みください。きっと目が開けます。
(2015年2月刊。800円+税)
2015年5月 2日
オーガニックラベルの裏側
社会
(霧山昴)
著者 クレメンス・G・アルヴァイ 、 出版 春秋社
従来型の養鶏や条件の悪い有機養鶏場で発症するのがカニバリズム。鶏は、互いに首や背中、尾そして尻周りの羽をつつきあう。そのため、体表が広く羽がむしりとられて皮膚が露出するため、感染症が発症しやすくなる。
群れの上下関係が確定していないときにも、カニバリズムが起きやすい。
鶏は鶏舎から出ようとしない。自然界では、鶏は森の周縁部に生息しているので、広い場所で身を隠すところがないようなところに出るのを鶏は恐れる。
オスのヒナは、生まれたその日に工場内のベルトコンベアーでシュレッダーまたはガス室に送られる。オスは卵を生まないから。
鶏は、はじめに濃度の薄いガスにさらされる。呼吸困難になり、パニックに陥って大暴れする。その後、より高い濃度のガスで気絶させられる。そして、回転シャッターにのせられて、一秒に3羽のペースで鶏は解体され、全自動工程でプラスチック容器にきれいに収まる。
この本は、有機畜産・有機農業といえども、家畜は劣悪な環境で飼育されていること、天然の在来種ではなく、ハイブリッドが利用され、農薬も使われ、形が悪いというだけで大量の作物が廃棄されていることを明らかにしています。
有機農業が本来の理想とかけ離れてしまった理由は、大規模化、産業化にある。それをスーパーマーケットなどの大規模な小売企業が推進している。
スーパーマーケットが納品量や形などについて理不尽な要求をするから、生産者は生き残るためには有機農業の理想を捨てるしかない。
有機農業だからといって、手放しで礼賛したり、安心してはいけないということのようです。
(2014年11月刊。2200円+税)
2015年5月 3日
冬を待つ城
日本史(戦国)
(霧山昴)
著者 安部 龍太郎 、 出版 新潮社
戦国時代の東北、陸奥(みちのく)九戸城に立てこもって豊臣秀吉勢15万を相手に見事にたたかった九戸(くのへ)政実(まさざね)が主役の小説です。なかなかに読ませます。
秀吉は朝鮮出兵のためには、寒さに強い東北の人々を朝鮮で働かせるつもりだった。人狩りだ。ところが、それを察知した九戸政実たちは、あの手この手を使い、盛んに謀略を用いてまで、ついに自分の生命と引き換えに人狩りを実現させなかった。
東北のたたかいが秀吉の朝鮮出兵と結びついたなんて、知りませんでした。本当に史実を反映した話なのでしょうか。それとも小説という創作なのでしょうか、誰か教えてください。
かつては南部家と九戸家、久慈家は対等な親戚につきあいをしていた。それが秀吉の指示により南部信直の配下に九戸も久慈も立たされることになった。
東北の雄である伊達政宗、蒲生(かもう)氏郷(うじさと)も登場します。話は謀略に次ぐ謀略として展開していきますので、面白いことこのうえありません。地形をふくめて、よく調べて書かれているので、本当に読ませます。
3000の城兵で15万の包囲軍と戦う。しかも、玉砕ではなく、勝てるという、なんと、それも3日間で・・・。
本当ですか、信じられません。そして、それが現実のものになっていくのです。
二戸市、久慈市のそれぞれ市史が参考文献に上がっていますので。よく調べたことが分かります。
クライマックスは九戸城を大軍の秀吉勢が包囲する戦いです。これにも『骨が語る奥州戦国九戸藩城』という本が参考文献としてあがっています。
史実を基本として、あまり曲げることなく読みものに仕立てあげる。私も、ぜひ挑戦してみたいと思っています。450頁もの大作です。2日かけて、じっくり読み通しました。
(2014年10月刊。2000円+税)
2015年5月 4日
希望の牧場
社会
(霧山昴)
著者 森 絵都・吉田 尚令 、 出版 岩崎書店
福島第一原子力発電所。そこから20キロ圏内にあった牧場。330頭の肉牛がいた。
3.11のあと、放射能をあびた牛たちは、もう食えない。食えない牛は売れない。それでも、生きてりゃのどがかわくから、水くれ、水くれってさわぐんだ。エサくれ、エサくれって、なくんだよ。
だれもいなくなった牧場に、オレはのこった。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。だってオレ、牛飼いだからな。まったく牛たちはよく食うんだ。エサ食って、クソたれて、エサ食って、クソたれて、まいにち、それだけだ。
それが肉牛の仕事だもんな。牧場の牛たちは、そのために生きて、死ぬ。それがこいつらの運命。人間がきめた。そして、原発事故によって、人間がくるわせた。
国は、そんな牛について、殺処分することをきめた。オレは、そうしなかった。
売れない牛を生かしつづける。意味がないかな。バカみたいかな。売れない牛に、まいにちエサをやる。もうからないのに、金だけかかる。
いま、牧場には360頭もの牛がいる。原発事故の前よりもふえている。ふしぎだろ?
知覚の牧場主からたのまれた牛や、迷子になっなってた牛を、ひきとったのだ。
力強いタッチの絵で原発事故による悲惨さを描き出した大判の絵本です。
(2014年9月刊。1500円+税)
2015年5月 5日
ふくおか古墳日和
日本史(古代史)
(霧山昴)
著者 吉村 靖徳 、 出版 海鳥社
福岡県内に、こんなにたくさんの古墳があるなんて、ちっとも知りませんでした。
県内各地の古墳が素晴らしい写真とともに紹介されています。今度の日曜日、いい天気だったら出かけてみようかな、そう思わせるだけある、青空の下の古墳たちです。
八女古墳群に現存している岩戸山古墳は、筑紫君(つくしのきみ)の磐井(いわい)が埋葬されている古墳とされています。阿蘇山の噴火でできた凝灰(ぎょうかい)岩を丸彫りした人物や武具がたくさん見つかっているのです。
6世紀半ばに大和朝廷の派遣した朝廷軍の磐井は敗れたのですが、そのとき根絶やしされたのではなく、その後も、筑紫君は八女丘陵に大規模な前方後円墳を築き続けた。
武装石人、武人埴輪、力士壁画、力士埴輪などが残されているのにも、心が惹かれます。八女には巫女(みこ)埴輪もあります。
春夏秋冬、四季の風情とともに古墳が写真で紹介されています。
いま、九州は西のはてにある。昔は、関西よりも表玄関として文化発祥の地だった。そのことを実感させてくれる写真集でもあります。
ぜひ、一度手にとって眺めてみてください。
(2012年12月刊。1800円+税)
2015年5月 6日
10代の憲法な毎日
司法
(霧山昴)
著者 伊藤 真 、 出版 岩波ジュニア新書
憲法改正のための国民投票は18歳からできるようになります。
これは当然のことでもあります。なぜなら、徴兵制になるかどうかはともかくとして、日本人が戦場へ駆り出されるとき、その主力の兵士は20歳以上ではなく、18歳以上であることは間違いありません。
アフリカの戦場では10代の兵士が珍しくなく、14歳にして部隊の司令官だ人間がいるというのです。恐ろしい現実です。
ということは、10代に憲法とは何なのかを知ってもらう必要があります。この本は、そんな思いで書かれていますので、とても分かりやすい内容になっています。さすが、だと感嘆しました。10代ですから、はじまりは学校生活の不満を問題とします。
集団や社会のために個人が犠牲になる社会であってはならない。
高校生の疑問に対して著者が答えていくのですが、実に明快な答えです。
人権というのは、元々は、人間として正しいということ、だから、権利を主張するときには、なぜその権利は正しいのかについて、みんなに分かってもらうことが大切になる。
住民投票とか、直接民主主義には、変な誘導がなされたり、世論操作の危険性がある。
ドイツでは、ヒトラーが演説の巧みさなどから国民の圧倒的な支持を集め、圧倒的な支持を集め、ナチ党の独裁を許し、ユダヤ人の大量虐殺などの暴走につながった。だから、何でも住民投票で決められたらいいということにはならない。
今こそ、大いに憲法について語りましょうと伊藤弁護士は若い人に呼びかけています。私も、まったく同感です。憲法は古い、死んだものではありません。きわめて新しい内容をもっているのです。ぜひ10代のあなたに読んでほしい新書です。
(2014年11月刊。840円+税)
2015年5月 7日
ベルリンに一人死す
ドイツ
(霧山昴)
著者 ハンス・ファラダ 、 出版 みすず書房
ナチスドイツに抵抗したドイツの大学生たちは、白バラ・グループと呼ばれました。大学の内外でナチスへの抵抗を呼びかけたビラをまいたのです。ところが、そのビラを読んで決起した学生・市民はほとんどいませんでした。そして、大学生の兄妹は死刑となってギロチン台で処刑されてしまいました。
戦後になって、その行為は高く評価されたわけですが、残念ながら、同時代のドイツ人を立ち上がらせることは出来ませんでした。
この本の主人公は、一人息子をドイツ兵として戦死させてしまった中年の夫婦です。夫は、まだ現役の労働者でした。ヒトラーを批判し、反戦を呼びかけるハガキをベルリンの町のあちこちに置いていったのです。
ところが、そのハガキを手にした人は、恐怖のあまりほとんどが警察へすぐに届け出てしまいます。その限りでは、反戦ハガキは何の効果もありませんでした。しかし、本当に効果がなかったのかどうかは、本書のような存在が証明していることになります。
この小説のモデルとなった実在の人物は1940年から2年にわたって、公共の建物にナチスへの抵抗を呼びかける文章をハガキに書いてベルリンの町のあちこちに置いていった。
ベルリン中からハガキが発見されたため、ゲシュタポ(ナチスの秘密警察)は、大がかりな地下組織の存在を疑っていた。実際には、夫婦二人だけの「犯行」だった。1942年に逮捕され、形だけの裁判で死刑判決を受け、1943年にギロチンで処刑された。
あらゆる意味で平凡な一般市民の中に、こんな絶望的とも言える勇気をもった人々がいたことに驚かされる。
でも、よく考えてみれば、ベルリン市内には戦後までユダヤ人を隠して守り抜いた人々が少なからずいたのです。守った人々も、普通の一般市民だったのです。
ハガキを書いて町のあちこちに置いていたオットーは、政治的信条のためではなく、「まっとうな人間」でいるためにハガキを書いたのだ。本書に登場する人物のうち、ナチスへの抵抗を試みるのは、ほとんど全員が確固たる政治的信条をもたない平凡な人物ばかり。彼らは、ただ単に「まっとうな人間」でありたいという願いから、ナチスに抵抗し、迫害を受ける。その抵抗が何の役に立ったのかと問われたとき、オットーは次のように答えた。
「自分のためになります。死の瞬間まで、自分はまっとうな人間として行動したのだと感じることができますからね。そして、ドイツ国民の役にも立ちます。聖書に書かれているとおり、正しき者ゆえに救われるだろうからです」
この本は、1946年に出版されています。まさに終戦直後に書かれたのです。平凡なドイツ市民、はじめはヒトラー・ナチスを賛美していた夫婦がヒトラー批判のハガキを書いて町じゅうにばらまくようになるのです。その心理的変遷を行き詰まるタッチで描き出しています。
600頁もの分厚い本です。そのうえ上下2段組です。戦時下のドイツ、首都ベルリンの行き詰まる市民生活が丹念に再現されていて、読ませます。
(2014年10月刊。780円+税)
次のような詩があるそうです。
批判ばかりされた子どもは、非難することを覚える
殴られて大きくなった子どもは、力に頼ることを覚える
笑いものにされた子どもは、もの言わずにいることを覚える
皮肉にさらされた子どもは、醜い良心の持ち主となる
しかし、激励を受けた子どもは、自信を覚える
寛容に出会った子どもは、忍耐を覚える
賞賛を受けた子どもは、評価することを覚える
フェアプレーを経験した子どもは、公正を覚える
友情を知る子どもは、親切を覚える
安心を経験した子どもは、信頼を覚える
かわいがられ抱きしめられた子どもは、世界中の愛情を感じることを覚える
これはスウェーデンの中学校の教科書に載っているそうです。ドロシーロー・ノルトの「子ども」という詩です。長瀬文雄氏が紹介していました。弁護士生活40年以上となった私の実感にもぴったりあいます。やはり、人間同士も国同士も信頼しあうことが大切です。安倍政権のようなあちこちに「敵」をつくり、武力によって「敵」を抑えこもうというのではいけません。
2015年5月 8日
税金を払わない巨大企業
社会
(霧山昴)
著者 富岡 幸雄 、 出版 文春新書
大企業がもうかっているというのは間違いありません。その従業員の賃金も上がっているようです。問題は、それが社会全般にきちんと還元されているか、ということです。
誰だって、大企業は、もうかっているだけ税金もちゃんと国に治めていると思いますよね。ところが、この本によると、それが全然ちがうというのです。驚きました。呆れてしまいます。
日本を代表する世界的な大企業は日本国へ税金を納めていない。
ソフトバンク。あの孫さんの超大企業は、800億円近い純利益を上げているのに、納税額はわずかに500万円。うひゃあ・・・。ケタがいくつも違いますよね。
では、柳井さんのユニクロは?
純利益が750億円で納税額は50億円。少しはましです。でも、本当に、そんなことでいいのでしょうか・・・。読めば読むほど、腹の立つ本です。血圧が高い人は読まないほうがいいかもしれません。この本を読んで。プチッと脳血管がキレてしまっても、決して私の責任ではありません・・・。
三井住友フィナンシャルグループは、1500億円近い利益を上げているのに、税金は、わずか300万円しか納めていない。300万円といったら、小さな小さな零細企業レベルの納税額でしかありません。
みずほフィナンシャルグループも2400億円の純益に対して2億円ほどの納税額。同じく三菱UFJフィナンシャルグループも900億円近い純益に対して51億円ほどの納税額でしかありません。
あまりにも低すぎます。「政商」をかかえているということで有名なオリックスも、1700億円という純利益に対して、納税額は、わずか210億円。やめられませんよね。超大企業にとって、日本は天国そのものです。
日本の法人税は高い、いや高すぎるから下げろと経団連や一部のエコノミストが声高く主張しています。
実のところ、日本の法人税率は35%で、ドイツの30%、フランスの33%、アメリカの40%に比べて、そんなに高いわけではない。
日本の法人税の現状はまるでタックス・ヘイブン(租税回避地)と言うしかない。
日本の法人税は高い、高すぎると言っている超大企業のすべが、実は、驚くほど軽い税金しか納めていない。信じられませんね。超大企業というのは、世の中に貧しく、苦しんでいる人がいることなんて忘れ、切り捨ててしまっているのです。
企業グループ内の各企業が、株式を保有しあえば、各企業の利益による配当金を、グループなの企業で、ほとんど支払わずに内部留保することも可能になる。
日本の富裕層の税金は世界一安い。
5000万ドル(49億円)以上の純資産をもつ超大金持ちが、日本に2885人もいる。すごーい、ですよね・・・。安倍内閣は、消費税を10%に必ずすると断言しています。これでは、私たち庶民の経済状況を直撃し、苦しめます。
日本のヒドイ経済格差を強めている安倍政権は、本当に血も涙もない、あこぎな政治をすすめています。怒り、そして、それを支える事実と論理を身につけてくれる本でもあります。
(2015年2月刊。700円+税)
ゴールデンウィークは、どこにも出かけず、庭の手入れにいそしみました。今は、キョーブ、ハナショーブが花盛りです。ところどころにジャーマンアイリスも咲いています。ライトブルーだけでなく、黄・茶色そして純白の花もあり、心が惹きつけられます。5月の庭は、色とりどりで心も楽しく軽やかになります。
2月に植えたジャガイモの苗が大きくなってきました。6月が楽しみです。
庭のアスパラガスをとって口にすると、香りもよく、春を実感します。ウグイスの声が元気に響きわたります。カササギの巣は完成しましたが、産卵にはまだ至らないようです。二羽で、ときどき巡回しています。
2015年5月 9日
中尉
日本史(戦後)
(霧山昴)
著者 古処 誠二 、 出版 角川書店
戦後生まれ、いま40代半ばの著者がビルマ戦線の日本兵を描いています。
白骨街道とも呼ばれるほど無惨に敗退した日本軍の敗残兵の様子を、その生き残りの一人が体験談を書いたと思える迫真の描写に、思わず引き込まれてしまいます。
戦争の愚かさを、しみじみと実感させてくれる本です。
いま、日本では好戦的な安倍首相の下で、「挙国一致」体制をつくって、戦前のように「戦争する国・ニッポン」へ逆戻りさせようという動きが強まっています。とんでもないことです。
戦前のような美しい国・ニッポンを取り戻せという人がいます。しかし、現実には、美しいどころではなく、戦前には汚らしい、腐敗した日本があったのです。軍部独裁。暴虐の限りを尽くした知恵のない軍部によって、東南アジアへ侵略していき、大勢の罪なき人々を殺傷し、あげく日本列島は焦土と化しました。そんな状況に逆戻りさせられてはたまりません。
日本の若者が意味もなく殺され、路端やジャングルの中で白骨化していくなんて、それが「美しい」なんて絶対に言ってほしくありません。
戦争は最大の人権侵害です。弁護士会はいま、全国で、安倍内閣が戦争する国に変えようとするのに反対し、安倍内閣のもとでの道徳教育の押しつけなど、戦争推進体制づくりに抗して立ちあがっています。
それにしても、作家の想像力のスゴさには脱帽です。モノカキ志向の私にとって、もうひとまわり精進しなくてはいけないと思わせる戦争小説でした。
(2014年11月刊。1800円+税)
2015年5月10日
遺品整理士という仕事
社会
(霧山昴)
著者 木村 榮治 、 出版 平凡社新書
遺品整理士という仕事があることを初めて知りました。まだ国家資格ではありません。でも、今の日本には必要な仕事だと私も思います。だって、一人暮らしの年寄りがたくさんいて、孤独死で発見される人が次々にいるんですから・・・。
遺品整理とは、故人のもちものを受け継ぐものと、受け継がないものとに分け、リサイクルに出すか、ゴミとして処分する。遺品整理は、分別、清掃、査定、搬出、処分である。
遺族の指示のもと、この一連の作業を、心をこめて請け負うのが遺品整理士の仕事である。遺品整理士の仕事は大まかに言うと、分別と運搬に分けられる。そして、作業する前に、召集・消毒・脱臭の専門業者に来てもらうことがある。
遺品整理の関連業者は、今や日本全国に5000~6000業者もいる。
そして、高額請求によるトラブルが目立つ。
「ゼロ円回収」と無料をうたう業者は、「ゼロ円」という値段をつけて引きとったのだから、受けとった品物はリサイクル価格のあるもので、廃棄物ではない。だから、廃棄物処理法は適用されない。つまり、許可がなくても回収できると主張する。
日本は、ひとり暮らしのおばあさんの多い国。女性における単独世帯の割合のピークは、80~84歳。独居していた女性の部屋の9割から、現金が出てくる。男性の場合には、お金よりもいかがわしいものが出てくる。
仏壇は、海外へ日本の高給民芸品として輸出されることがある。
セルフネグレクト。怠慢、無関心が自分自身に向けられること。ゴミ屋敷で生活している人です。風呂に入らない。規則正しい生活をしない。きちんとした食事をとらない。ゴミを捨てず、家の中を悪臭の漂うままにする。自分を社会的な存在として保とうとしないので、周囲とも交流しない、引き込もってしまう人が大半。孤立死の8割は、生前、セルフネグレクトだった。
著者は、遺品整理士鑑定協会をたちあげ、通信制で認定している。受講期間は2ヶ月間。合格率70%。現代日本に必要な職業だと思いました。
(2015年3月刊。760円+税)
2015年5月11日
パンダ
生き物
(霧山昴)
著者 倉持 浩 、 出版 岩波科学ライブラリー
ネコをかぶった珍獣とされています。パンダのことです。
上野動物園で10年以上もパンダの飼育係をしている人によるパンダ紹介本ですので、パンダの素顔、その正体を知ることができます。
飼育員にとって、パンダは敬遠されがちだ。なぜなら、とても気をつかう動物だから。
パンダは、基本的にただのクマだ。だから、パンダのいる部屋に一緒に入ったことはない。飼育係をしていると、かわいいと思うよりも、むしろ怖い思いをすることの方が多い。
パンダは、昼も夜も寝ている。夜の方が寝ている時間が長いので、夜行性というのでもない。
飼育されているパンダの寿命は25歳。野生では20歳ほど。
パンダの赤ちゃんは100~200グラムで生まれ、大人になると100キロにまで成長する。
一頭のメスが生涯に育てられる子どもはせいぜい6頭。
エサはタケ。毎日5~6種類を与える。副食としては、ニンジンやリンゴ、パンダだんご(トウモロコシや大豆の粉などでつくるエサ用の蒸しまんじゅう)。
パンダの視力は、良くて0.3ほど。それでも、パンダは自分の飼育係は目で追っている。
パンダは、おいしいか、おいしくないか、匂いで選び分けているようだ。
金属音や震動音は嫌がる傾向が強い。
パンダの足腰の関節は、とても柔らかい。
パンダは高いところに登るのが大好き。幼いパンダほど、よく木に登る。もっとも、降りるのは苦手。驚いたり不安になったりしたとき、パンダは高いところに上がる傾向がある。
パンダの主食のタケは、ほとんど消化吸収されないので、そのままの色で排泄される。だから、パンダのフンも多くはタケ色だ。フンは笹団子のような匂いがする。匂いも悪くはない。
パンダの食事の90%以上はタケなのに、盲腸はもっていない。
パンダは、クマの一種であり、肉食を忘れてはいない。
パンダも鳴いている。お腹がすいた時、不満や要求がある時には、メーメーとヒツジのように鳴く。怒ったときには、「ワン」と、犬のように鳴く。
発情期のオスとメスは、メーメーというヒツジ鳴きと、「キュッキュッ」というような鳥泣きでコミュニケーションをとっている。メスが雄を選ぶ時には、体格やルックスだけでなく、声にも好みがある。
パンダにとっては、ひとりボッチのほうが性にあっている。パンダは単独生活で、孤独を愛する派なのだ。しかし、パンダは、3歳位までは共通の施設で育てている。
パンダも病気になる。野生のパンダの多くは寄生虫に感染している。
パンダの受精のチャンスは1年に1度しかない。
可愛らしいパンダの現実を知ることのできる新書です。
(2014年9月刊。1500円+税)
2015年5月12日
伊藤真が問う日本国憲法の真意
司法
(霧山昴)
著者 伊藤真、浦部法穂、水島朝穂ほか 、 出版 日本評論社
大変分かりやすく、知的刺激にみちた憲法論が展開されている本です。
はじめに伊藤真弁護士が問題提起をして、それに3人の憲法学者がこたえて自説を述べていくという形式です。それぞれ議論が発展していくのが面白い趣向です。
かつての日本(戦前の日本)は、立憲政友会とか立憲民政党など、立憲主義を標榜する政党があった。ところが、いま、「立憲主義」の思想、視点が日本社会に欠けている。
立憲主義は多数派に歯止めをかけること。戦前の日本やヒトラー・ドイツを見たら、多数派が正しいとは限らないことは明らか。人間は、ムード、情報操作、目先の利益に騙されるという不完全性がある。韓国・台湾の憲法にも、日本と同じく、国民の憲法遵守・尊重を求める規定はない。
8月15日を「終戦」記念日とするのは問題があると指摘されています。目が開かれる思いでした。8月15日は、天皇ヒロヒトが臣民に向かって放送で敗戦を伝えただけのこと。日本政府が連合国側と戦艦ミズーリの甲板上で降伏文書に調印したのは9月2日。したがって、米・英などの国々は9月2日を「対日戦勝記念日」としている。
昨年7月1日の閣議決定は、現行憲法の下で集団的自衛権の行使は認められないとしてきた歴代政権の憲法解釈を変更した。これに対して、最近の歴代内閣法制局長官は反対している。
この閣議決定のもとで、日本の軍需産業は色めき立っている。日本の「死の商人」が動き出したのです。怖いです。恐ろしいことです。いよいよ日本もテロのターゲットになります。防衛省は、防衛装備庁という1800人からなる外局を設置した。国を挙げて「死の商人」を応援しようというのです。
安倍内閣は、金もうけのために武器の生産・輸出、原発の再稼働・輸出、そしてカジノを国内でやろうとしています。本当に許せません。国民生活の安定・平和なんて、まるで考えていません。金もうけが全ての世の中をつくり出したいようです。品性があまりに下劣です。
安倍首相がアメリカの連邦議会で演説した何日か後に、アメリカから17機ものオスプレイを日本が買うことになったと報道されました。3600億円も支払われます。社会保障をほぼ同額(3900億円)削減したうえでのことです。本当に許せません。そのうえ、この欠陥機オスプレイを東京の横田基地に10機も配備するそうです。日本人を馬鹿にしています。
日本は戦前、ずっとずっと戦争してきました。「大東亜共栄圏」と称して侵略戦争を展開し、多くの罪なき人々を殺傷し、逆に日本人も多くが殺傷されてしまいました。ところで、戦前というのは明治元年から71年間です。戦後も既に70年となりました。今では、ジャパン・ブランドは戦争しない国・ニッポンなのです。ところが、安倍政権は、この貴重な、実績ある平和ブランドを戦争する国・ニッポンに塗り変えようとしています。許せません。
安倍首相の言う「積極的平和主義」というのは、「武力行使に積極的」というものです。戦前の日本も、「平和を守る」ために戦争を仕掛けていったのです。安倍首相の嘘にだまされてはいけません。
ホルムズ海洋の機雷掃海に自衛隊を出すというのは、イランに攻めこむということと同義である。親日国・イランが当惑してしまうようなことを安倍首相は国会で高言している。
安倍首相の言動こそアジアの安全を脅かしている最大の脅威である。
まことにそのとおりだと思います。法学館憲法研究所の積極果敢な憲法シシリーズに対して、心より敬意を表します。
(2015年4月刊。1500円+税)
2015年5月13日
子どもに貧困を押しつける国・日本
社会
(霧山昴)
著者 山野 良一 、 出版 光文社新書
とても豊かになった日本ですが、そのなかで子どもの貧困が深刻化しているのです。
「強い国」づくりを目ざす安倍政権の弱者切り捨て政策によってつくられた現象です。なかなか目に見えてこない現象ですが、日本の国を底辺から大きくむしばんでいます。
子どもの貧困は、見ようとしなければ見えないものになっている。日本の貧困ラインは、個人単位で年収122万円。親子2人世帯では月14万円、年173万円。親子4人世帯だと月20万円、年244万円。
貧困率は16%。ここを切り捨ててしまうと、日本経済は全体として底上げができず、結局、消費向上、景気回復はできません。
日本のひとり親世帯の貧困率は、先進国のなかで2番目に高い。
保育を受けられないこと、保育から排除されることは、貧困な子どもに非常に大きな影響を与える。
乳幼児期に身につけた認知能力、社会性、情緒的な安定性などは、より効果的に、より継続的に、より困難な障壁なしに、その後の学習への取り組みの支えとなる。つまり、学習が学習を生む。
大学への進学は、貧困の世代間連鎖から抜け出すためのもっとも適切な手段でもある。
日本は、もっとも大学に行きにくい国だ。ヨーロッパは、大学の授業料がタダか、とても安い。高くても年間15万円。
そして、私立大学は、ヨーロッパにはほとんどない。私立大学に学生の大半が通うのは、日本と韓国くらい。アメリカでも、3割ほどでしかない。
子どもを日本はもっと大切にすべきです。道徳教育を子どもに無理矢理押しつける前に、大学まで全部の授業料をタダにして、学生への生活援助制度をもうけるべきです。利子のつく奨学金貸与なんて、論外です。
軍需産業育成ではなく、人材育成にこそ国の予算をつかうべきだと思います。
人間こそ、国の宝なのです。
(2014年10月刊。820円+税)
2015年5月14日
平安時代の死刑
日本史(平安時代)
(霧山昴)
著者 戸川 点 、 出版 吉川弘文館
日本では平安時代に死刑制度が廃止され、それ以後、ながく保元の乱までの350年間、死刑執行はなかったと言われるのを聞くことがあります。本当なのだろうか・・・、と疑っていました。この本を読んで、ようやく真相を知ることができました。
著者は、団塊世代の私より10歳若く、今は高校の教員をしています。名前は、ともると読みます。
死刑の執行については、天皇に3度も奏聞(そうもん)することになっていた。それだけ慎重に扱っていた。
唐の玄宗皇帝は治世の最初より死刑を避けた。中国においても死刑廃止の動きがあり、それが遣唐使を通じて日本にも伝えられた。それが唐文化に傾倒した嵯峨天皇によって日本でも実施されたのではないか。
しかし、日本では、律の条文を改編して死刑制度を廃止したのではなかった。あくまで死刑を停止したというのにとどまる。
聖武天皇は、仏教思考や徳治思想の影響から死刑を減刑しようという発想を強くもった天皇だった。聖武天皇の出した恩赦は32例であり、歴代の天皇のなかで一番多く発令している。次に多いのが持統天皇の16例である。
嵯峨天皇が聖君と扱われたことから、嵯峨天皇が死刑を廃止したというイメージが定着していったのだろう。
薬子(くすこ)の変は、嵯峨天皇の王権に大きな影響を与えるものだった。この危機を乗り切った嵯峨天皇は権威と求心性を高める必要があった。死刑の停止により、自身の徳をアピールしようとした。
死刑を停止したといわれる嵯峨朝以降も、合戦や群盗との争いのなかの処刑や国司、検非違使別当の判断で死刑が実施されることはあった。
中央政府の死刑忌避は、秩序・治安維持のために太政官の預からぬところでの死刑や肉刑を生み出していった。こうして太政官のタテマエとしての死刑忌避と実態としての死刑というダブルスタンダードが生まれた。
保元の乱のあと死刑が復活したといっても、実際に処刑されたのは、「合戦の輩」のみだった。このときも、貴族は死刑を忌避し、死刑復活に反発した。そして、貴族を除く武士などには実態としての死刑が実態されていた。
なーるほど、ここでも日本人お得意の、ホンネとタテマエの違いがあったのですね。
(2015年3月刊。1700円+税)
2015年5月15日
日本はなぜ基地と原発を止められないのか
社会
(霧山昴)
著者 矢部 宏治 、 出版 集英社
憲法論のところでは、疑問も感じましたが、本書の指摘は日ごろの私の実感によくあっていましたので、つい、うんうんと大きくうなずきながら、どんどん読みすすめていきました。
まずは沖縄です。安倍首相が、沖縄県民が選んだ翁長知事を無視しているのは、とんでもないことです。
アメリカ軍の飛行機は、日本の上空をどんな高さで飛んでもよい。日本政府は、そのことについて文句は言えない。
もちろん、私たち国民は文句が言えるわけですが・・・。
アメリカ軍の飛行機は、アメリカの棲んでいる住宅の上空では、絶対に低空飛行訓練はしない。なぜか? それは、危険だから。では、それ以外の土地で低空飛行しているのはなぜか? 日本人は、アメリカ人ではないから。つまり、日本人は保護する必要がないからなのです。
アメリカ軍の飛行機は、沖縄という同じ島のなかで、アメリカ人の家は危ないから飛ばないけれど、日本人の家の上は平気で低空飛行する。ところが、アメリカ本土ではアメリカ軍がアメリカ人の住む家の上を低空飛行することは、厳重に規制されている。これは当然のことです。要するに、日本人の生命がアメリカ人とは比較にならないほど軽んじられているのです。
アメリカべったりの右翼・保守陣営は、このような現実を見ようとはしません。アメリカにタテつくなどということは、恐ろしくて出来ないのです。そのくせ、愛国心を、ことさら強調するのですから、矛盾過ぎますよね・・・。
鳩山由紀夫首相(当時)が、アメリカに独自姿勢を示そうとしたとき、外務防衛官僚は、真正面から堂々と鳩山首相に反旗をひるがえした。日本の高級官僚はアメリカべったりの思考にこり固まっているからです。
沖縄のアメリカ軍基地には、最大で1300発もの核兵器が貯蔵されていた。そして、日本からソ連や中国を核攻撃できるようになっていた。三沢基地では、連日、すごい訓練が実施されていたようです。
日米合同委員会のなかで、日本側は、アメリカの言いなりになるのだが、その日本側の委員はみな各省庁で大出世していった。
次に、福島原発事故について取りあげています。
私は前にも書きましたが、東電の当時の会長や社長たちが刑事訴追されることなく、のうのうとしていることを許すことができません。彼らこそ、日本をダメにした元凶です。少なくとも有罪を宣告され、無期懲役刑が相当だと思います。なにしろ、15万人もの日本人の住む家を奪ったのです。その罪責は途方もなく大きいと思います。許せません。
先日の鹿児島地裁における原発差止仮処分の却下決定は、3.11福島第一原発事故の教訓をまったく学んでいない裁判官による、とんでもなく勇気の欠如したものでした。残念です。東大工学部出身の裁判官だということですが、人間としての勇気がないと、目まで曇ってしまうのですね・・・。困ったものです。
(2014年11月刊。840円+税)
2015年5月16日
御松葺騒動
江戸時代
(霧山昴)
著者 朝井まかて 、 出版 徳間書店
尾張徳川藩を舞台とする話です。作家の想像力とは、すごいものです。たっぷり朝井ワールドに浸って楽しませていただきました。
尾張藩は徳川宗春時代の放漫政治が今なおたたっていて、借金を抱えて四苦八苦しているというのに、藩士たちの生活には緊張感が認められない。それを主人公が一人で改革しようと躍起になるのですが・・・。
空回りしてしまって、ついには御松茸同心(おまつたけどうしん)を命じられて、都落ちさせられます。要するに、江戸屋敷づとめからの左遷です。
才能ある自分がなぜ左遷させられるのか納得できないまま尾張へ出向き、山の中の仕事に向かうのでした・・・。
松茸ができるのは黒松ではなく、赤松。その生成過程が紹介されます。
松茸が四、五分開きまでの物が御松茸になる。地表に出たものは傘が開ききっているので上納できない。地表から半寸ほど頭を出したときに掘りとなる。手を差し入れて根元から押し上げるように採取する。
軸が肉厚で白く、太く、かつ湿り気を帯びていなければ、風味は格段に落ちる。松茸でさらに肝要なのは香りと芳しさだ。匂いは傘にある。早採りしても匂いが足りないので、上納品にはならない。このように、松茸の収穫はごく短期間に限られる。
松茸の収穫をどうやって確実にするのかということが、次第に才能ある若き武士の挑戦すべき人生の課題となっていくのでした。
主人公を取り巻く人々も魅力的な個性あふれる人物に描かれていて、しっかり朝井ワールドを楽しむことができます。
(2014年12月刊。1650円+税)
2015年5月17日
星砂物語
日本史(戦前)
(霧山昴)
著者 ロジャー・パルバース 、 出版 講談社
アメリカ人による戦争中の沖縄は、鳩間島で起きた戦争体験記と称する小説です。
すごいです。登場人物になりきった思いで読みふけってしまいました。
ハトマ島は、沖縄本島ではないので、直接の戦闘行為はありません。ところが、そこに、日本の脱走兵とアメリカの負傷兵が同じ小さな洞窟に隠れているのです。さすがに昼間からうろうろするわけにはいきません。そこに16歳の日本人少女が登場します。アメリカで暮らしていて日本へ戻ってきたので、英語が話せます。負傷したアメリカ兵はこう言います。
人を殺すと、人間の性格は変わる。そのため兵隊がアメリカに帰って、母親や妻や姉たちとまた一緒に暮らすようになったとしても、彼自身が故郷へ実際に帰ることはできない。つまり、帰ったのはそれまでの彼ではないのだ・・・。
井上ひさしも亡くなる前に読んで絶賛したとされていますが、たしかに戦争の悲惨さを読み手が実感できる形で再現した小説だと思いました。しかも、それを「敵国」アメリカ人が日本語で書いたというのですから、驚嘆するしかありません。
自民党や公明党の幹部連中に読んでほしいと思いますが、恐らく彼らは見向きもしないのでしょうね。戦争の悲惨さなんて語ってほしくないでしょうから・・・。
でも、戦争になったら、いつ殺されるのか分からないのですよ。そして、いま自民・公明の安倍政権がすすめているのは、まさしく戦前への「回帰」なのです。本当に恐ろしい、怖い世の中です。
(2015年3月刊。1400円+税)
2015年5月18日
新世界ザル(上)
サル
(霧山昴)
著者 伊沢 紘生 、 出版 東京大学出版会
学者って、本当に偉いと思います。南アメリカのジャングルの中に入って、毎日、サルをじっと観察し続けるのです。すごいです。その大変な苦労のおかげで、居ながらにしてサルのことを知り、人間とは何者なのかを少しずつ理解できるのです。
アマゾンのジャングルでの調査を30年も続けてきたということに、まず感嘆します。私も、いつのまにか弁護士生活40年を過ぎてしまいました。私も現役ですので、判決も勝ったり負けたり悲喜こもごも毎日を過ごしています。人間相手の仕事ですので、アマゾンのジャングルではありませんが、人間ジャングルの中でもがいているという実感はあります。
新世界ザルは、熱帯雨林の樹上をもっぱらの棲みかとして、ゆっくり進化していった。ないし、長い時間をかけて森林の樹上になじみきってしまったサルたちだ。
熱帯雨林こそ、サル類を誕生させ、進化させた元々の環境なのである。
ホエザルは、新世界ザルのなかでは、とりわけ神経質なサルである。人への警戒心も強い。林床からは決して見えない樹々の茂みに逃げ込んだら、1時間でも2時間でも隠れ続け、出て来ない。
そのホエザルを著者は追い続けるのです。
水平に延びるツタの中ほどで止まる。ホエザル8頭全員が身体を寄せあって、来た順に横一列に並ぶ。そして、次の瞬間、一斉に大量の小便をし、続いて大量の糞を排泄する。
ホエザルは、早寝遅起のサル。朝8時過ぎに起き、夕方は、まだ森の中が明るい午後4時ころには寝てしまう。
まさか、一日のうち16時間も寝ているなんて・・・。おどろきです。
ホエザルは、移動ルートを3日から5日で一周する。かなり規則正しい生活を送る。
ホエザルは大声で吠える。しかし、それ以外は、めったに鳴かない。お互いの毛づくろいをほとんどしない。
ホエザルに表情の変化はほとんど見られない。喜怒哀楽が、表情から伝わってこない。
ホエザルは葉っぱ食いの道を選んだ。葉を食べて生きるには、直接消化できないセルロースをバクテリアによって発酵させなければならず、そのぶん休む時間が長くなる。それに発酵によって熱が発生するため、体温調節からいっても、できるだけ緩慢に動くほうがいい。
ホエザルのオスの寿命は、20年ほど。オスにとっては、生きのびるのも大変、中心オスになるにも大変、子孫を残すのも大変な社会だ。
フサオマキザルは、新世界のなかで、これほど表情豊かなサルはいない。
フサオマキザルは、介護サルとしても活躍している。手足が不自由で、車いす生活を送る人の日常生活を手助けする。フサオマキザルは、動物園では、最長47年も生きる。
すごいですね。ずっとずっとアマゾンのジャングルで寝泊まりしていたなんて・・・。
(2014年11月刊。3600円+税)
2015年5月19日
NHK-危機に立つ公共放送
社会
(霧山昴)
著者 松田 浩 、 出版 岩波新書
私はテレビを見ませんので、NHKを利用しているのは、毎朝のラジオ・フランス語講座と日曜日の「ダーウィンが来た」(録画しておき、寝る前に見ます)だけです。
昔々は、朝の連続テレビ小説の「おはなはん」(樫山文枝の主演)を楽しみにしていました。その後は、「Nスペ」などの真面目な番組を見ることもありません。映像よりも活字の世界で生きていたほうが、私の要求を満たしてくれると思っているからです。
それにしても、いまの籾井(もみい)という会長はお粗末すぎます。恥を知らない日本人という典型ではないでしょうか。いくら安倍首相のお気に入りといっても、これほど愚劣な人物が日本を代表する天下のNHKの会長とは信じられません。自分に、資格がないことの自覚がないのは安倍首相と同じで、救いようがありません。
三井物産出身ということですが、その会社も大したことがないと言うしかありませんよね。だって、こんな大会社の副社長が、こんなつまらない男でもつとまるというのですから・・・。いやはや、日本の大会社のレベルも地に墜ちたものです。
NHKの元総合企画室局長が、「NHKは、創設以来、過去最大の危機に直面している」と言うのに、同感するばかりです。
公共放送にとって大切なことは、政治家を監督すること。「籾井発言」の問題の本質は、公共放送にとって生命である「自主・自立」が根底から脅かされているということにある。
NHKには、公権力に対峙して、国民の「知る権利」や言論・表現の自由を守るためにたたかったという実績はない。常に永田町(自民党)の動向にばかり気をつかい、政府による政治介入に対して妥協と譲歩を重ね、自主規制に終始してきた。したがって、「権力監視」の意識はNHKでは育ちようがない。なんだか、そこまで言われると、悲しくなってきます。
戦争に反対し、抗議デモをしている人々について、全国的そして国際的な現実の一部として報道すべきなのだ。
私も、本当にそうだと思います。いまのNHKは、本当に不甲斐ないとしかいいようがありません。
公共放送の「自主・自立」を守るためにたたかわない、そしてたたかってこなかったNHKの不甲斐なさに問題がある。
まったく同感です。あまりにも安倍政権の言いなりになりすぎです。
NHKのなかにも、リベラルな人材や見識を持った幹部がいないわけではない。しかし、そんな良識派が多数派になり、主流派になることができない権力構造がある。組織として権力とたたかってでも自主・独立を守ろうという伝統はない。
これって、本当に残念ですよね。そこが、イギリスのBBC放送とNHKの最大の違いではないでしょうか・・・。困りました。
(2014年11月刊。840円+税)
2015年5月20日
スノーデン・ファイル
アメリカ
(霧山昴)
著者 ルーク・ハーディング 、 出版 日系BP社
権力は知らせたくない、しかし知りたい。自分に都合の悪いことは一般に知られたくないので、「特定秘密」に指定する。そして、国民が何をしているのか、何を考えているのかは知りたいので、無断で傍聴する。どこの国でもやっているのですが、アメリカの場合は、それがケタはずれです。そして、日本の自公政権も、アメリカに習って特定秘密保護法を制定・施行してしまいました。
今や、世界はスパイ天国と化している。グーグル、スカイプ、ケータイ、GPS、ユーチューブ、トーア、Eコマース、インターネットバンキングなどは、監視マシーンと化している。
アメリカのNSAはGCHQと協力して、海底の光ファイバーケーブルに盗聴器を仕掛けていた。そのおかげで、アメリカとイギリスは、全世界の通信内容の多くを読みとることができた。
NSA本部には、4万人が働いている。アメリカ最大の数学者の雇用主だ。
スノーデンは、10代になったころ、日本に熱を上げていて、日本語も1年半ほど勉強した。
諜報機関は、ケータイをマスクや追跡装置に変えられる。
2009年にイギリスのロンドンでG20サミットの会議があったとき、GCHQは諸外国の首脳を盗聴していた。
アメリカのNSAには、光ファイバーケーブルの盗聴という、大きな極秘任務がある。
NSAは外国の情報だけでなく、アメリカを通過する、すべての通信を収集している。アメリカ本土には、通信が監視・収集・分析されずに出入りできる地点は一つもない。
2003年の電話通信1800億分のうち、20%がアメリカを発着し、20%がアメリカを通過していた。通信会社にとって、NSAとの協力関係は、ずい分とお金になった。国際通話の81%にアクセスする見通りにアメリカ政府は、毎年、大手通信会社に何億ドルもの大金を払っている。
フェイスブックは、2012年後半に、1万8000~9000人のユーザーの個人データを、NSAだけでなく、FBI、地方警察など、さまざまな法執行機関に提供した事実を認めている。
スノーデン・ファイルの恐ろしい現実が紹介されています。
(2014年5月刊。1800円+税)
2015年5月21日
イスラーム国の衝撃
中東
(霧山昴)
著者 池内 恵 、 出版 文春新書
イスラーム法では、カリフの存在の必要性は明確に規定されている。『コーラン』とハディース(預言者の言行録)に依拠して、歴代の法学者が議論で合意に達した見解を疑うことは宗教上許されない。イスラーム世界が統一されてカリフが統治するという理念に異論を挟むことは、イスラーム教徒のあいだでは困難である。
かといって、全世界のイスラーム教徒や政府が「イスラーム国」のバグダーディーにしたがって、「イスラーム国」への加入を求めるという事態は起こりようもない。
バグダーディーは、預言者の血統を象徴する黒いターバンなど、「衣装」にも入念に気を配っている。
欧米人人質の処刑については、処刑の対象者も、処刑の実行者も入念に人選し、時期を選んでいる。欧米人一般ではなく、まずはアメリカ人を、続いてイギリス人を選び、それらの国によるイラクあるいはシリアへの軍事介入を止めるよう要求する映像を流して、一定期間をおいたうえで、処刑して公開していった。それによって、少なくとも集団の側の論理では、これらの殺人に正当性があるという主張の根拠を示す形で情報発信を試みた。
人質にオレンジ色の囚人服を着せることで、グアンタナモ(キューバ)やアブー・グレイブ(イラク)でのイスラーム教徒への不当な扱いに憤る者たちの目には、斬首や映像公開といった行為も、「正当」に見えるという効果を狙っているのだろう。
アメリカによる「対テロ戦争の」圧力を受けたアル・カーイダが復活した最大の要因は、2003年のイラク戦争だった。
2014年に「イスラーム国」を名乗るまで、この組織は少なくとも5つの別の名前を名乗っていた。2003年のサダム・フセイン政権崩壊のあと、反米武装勢力の中心組織として、「タウヒードとジハード国」が台頭した。
欧米側は、「イスラーム国」と呼ばず、ISISとかISILと呼び続けている。「イスラーム国」がイスラームを代表せず、「国家」でもなく、その勢力範囲は、イラクとシリアに限定されているという認識を確認するためである。
オバマ政権が、アメリカ軍の完全撤退を2011年来に完了すると、「イスラーム国」はまたもや息を吹き返した。「イスラーム国」は、旧フセイン政権の軍・諜報機関の関係者を指導部に多く含んでいる。土着化をすすめる「イスラーム国」は、旧フセイン政権幹部の秘密組織とのつながりを深めた。
仮に「イスラーム国」の半数ほどが外国人であるとしても、その主たるメンバーはイラク、である。2013年以降は、シリア人も増えた。
「イスラーム国」が自らの存在を宣伝するには、無関係な第三者によって興味本位で転送されて広まるのが、一番効果的である。そのためには、話題にあがるほど衝撃的な映像でなければならない。しかし、同時に、残虐すぎてはならず、視聴に耐える範囲の残虐さでなければならない。見た目の残虐さを緩和するのが、処刑人の演劇的なしぐさである。
これによって、人々は映画やドラマを見ているかのように錯覚して映像を見てしまい、転送しているうちに、映像はホンモノだと思われてしまう。
なかなか宣伝に長けた集団のようです。いずれにしても、安倍首相の言うようなアメリカ尻馬に乗って日本の自衛隊が戦闘行為をするようになったら、日本自体がテロ攻撃の対象になる危険があります。絶対そんなことにならないように安倍内閣の戦争推進法案に反対しましょう。
(2015年1月刊。780円+税)
2015年5月22日
モンサント
アメリカ
(霧山昴)
著者 マリー・モンク・ロバン 、 出版 作品社
アメリカって、本当にいやな国だとつくづく思いました。自分さえ良ければいい。目先の利益が最優先。あとは野となれ、山となれ、という国なのですね。もちろん、アメリカ人にも良心的な人々がたくさんいるとは思います。それでも、アメリカの軍隊、そして大企業の力の強さには、げんなり、うんざりしています。
今回のテーマは軍事ではなく、企業のエゴの話です。その名も、モンサント。
四日市コンビナートにもいましたよね。世界中を荒らしまわっている、とんでもない公害まき散らし、環境破壊の大企業です。
1万7500人の従業員をかかえ、2007年には75億ドルの売上高をあげ、うち10億ドルが純利益。世界全体で遺伝子組換え作物の90%はモンサントが特許を有している。その耕作面積は1億ヘクタール。半分がアメリカ、次いでアルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、中国、パラグアイ、南アフリカ・・・。
これらの国から農産物は輸入すべきではないということです。農薬まみれの野菜を食べさせられるからです。
モンサントは、PCBが健康被害をもたらすことを1937年から知っていた。しかし、何も知らないかのように行動していた。モンサントは無責任という以上に、犯罪行為をしている。
そして、モンサントを訴えた人についての裁判では、強力な弁護団を組み、「不屈の敵」というイメージを相手に与えるべく、無限のお金をつぎ込んだ。もう裁判なんてしようと思わせないようにする魂胆だ。
アメリカには、4つの「回転ドア」がある。その一は、ホワイトハウスからモンサントへ就職する。その二は、議会メンバーが、モンサントのためのロビイストになる。その三は、環境規制機関からモンサントへ天下りする。その四は、モンサントから政府機関その他へ向かうドアがある。
モンサントは、年間1000万ドルの予算と74人のスタッフを使って「調査」している。モンサントから買った種子をつかい、翌年、それによって得られた種子をつかうことは禁じられている。「同意書」にサインされているのだ。違反者に対する制裁金は巨額であり、破産するしかない。
モンサントの供給する種子は、1回目は効果がある。しかし、次からは、化学肥料を大量投入しなければいけなくなるので、農地はダメになっていく。遺伝子組換えといっても、実際には、殺虫剤成分が組み込まれているだけ。だから、人間が食べると、殺虫毒素の残留物を摂取していることになる。
うひゃあ・・・。こんなの、いけませんよ。
ランドアップ耐性大豆の栽培地帯では、ガン患者が増加している。
自分さえ良ければ、今さえ良ければ、お金さえもうかれば・・・、そんな企業って、この社会に存在する価値なんてありませんよね。
フランス人女性のルポルタージュです。彼女自身が農家の生まれだといいます。
私も完全無農薬の野菜を庭で育てていますが、すべてというわけにはいきません。
ドキュメンタリー映画もあるそうです。ぜひ見てみたいです。
(2015年3月刊。3400円+税)
2015年5月23日
やきとりと日本人
社会
(霧山昴)
著者 土田 美登世 、 出版 光文社新書
たまには美味しい焼き鳥を食べたいですよね。そして、この本を読むと、焼き鳥の世界も奥深いものがあることを思い知らされます。
東京・銀座にある有名な焼き鳥店で食べたことがあります。さすがに、いつも食べているような焼き鳥とは格別の違いがありました。なんといっても素材が違います。
キジは、日本のジビエ史におけるグルメ素材の一つ。奈良時代、平安時代、鎌倉時代、室町時代と、上流階級におけるとり料理の主役はキジだった。鶏も七面鳥も、キジの仲間である。
江戸時代には、それ以前から人気のあったキジに加えて、カモもよく食べられるようになった。ただ、格があるとりと言えばツルで、将軍や大名の膳に用いられていた。
フランスのブレス産の鶏は、自由放飼、飼料などに細かい規制がある。出荷されるのは空腹にして1500グラム以上のもので、日齢でいうと120日以上のもの。
1980年代のパリで、すでに本格的な日本の焼き鳥はウケていた。
今は、店で鶏をさばくには食鳥処理の免許が必要で、それをもつ店はごくまれ。ほとんどの店は、さばかれた肉と内臓部分を別々に買って、それを店のサイズに切り、串にさしている。
日本の「七大やきとり」は、北海道の美唄、室蘭、東北の福島、埼玉の東松山、愛媛の今治、山口の長門、そして福岡の久留米。
鶏肉は朝絞めがいい。鶏肉に鮮度は大切だ。
熟成に必要とされる期間が、牛や豚のそれよりもはるかに短く、参加されやすい不飽和脂肪酸を多く含んでいる。つまり、脂肪が酸化する前に食べてしまわなければならないのだ。ブロイラーは、日齢40~50日ほどで出荷される。地鶏の日齢は最長で150日。両者には100日間も差がある。
1本を1分間で食べ終わる世界だが、たいていの名店では、6時間以上かけて何百本と仕込みをし、いつも同じ焼き手が、炭火に集中しながらチャンチャン焼いていく。
この世界は、串打ち3年、焼き一生といわれる。二つの技術、とりを炭のうえに安定して置いて均一に焼けるように串を刺す技術と、それを焼きあげる技術が必要とされる。
やきとりの魅力のひとつは、甘いたれが焦げたときの香ばしい香りである。
たかがやきとり、されどやきとり、ですね。さあ、美味しいやきとりを食べに行きましょう・・・。
(2014年12月刊。780円+税)
2015年5月24日
世界でいちばん石器時代に近い国
社会
(霧山昴)
著者 山口 由美 、 出版 幻冬舎新書
パプアニューギニアの素顔を紹介した面白い本です。
パプアニューギニアは、世界で2番目に大きな島である、ニューギニア島の東半分などからなる国。日本からは6時間半かかるが、これはハワイと同じ飛行時間で行けるということ。
パプアニューギニアという国の面白さは、ついにこの前まで石器時代だったことにある。
内陸部のジャングル地帯には、マラリアなどの病気のため、ヨーロッパ人は入り込むことができず、昔のままの姿が残っていた。
パプアニューギニアには鉄道がない、道路がない。だから自動車を目にすることもない。だけど、奥地には滑走路があり、飛行機の離発着はできる。宣教師たるもの、飛行機の操縦は不可欠なのだ。そして。飛行機の整備も、燃料の補給も、セルフサービスである。
パプアニューギニアでは、親しくなった人から騙されるということはない。
パプアニューギニアでは、800以上の言語が話されている。世界に6000ある言語のうち、なんと1000もの言語がニューギニアに集中している。もっとも小さいものは数十人、多いものでも30万人ほどの言語だ。だから、公用語は英語であり、ピジン語が共通語として広く話されている。
パプアニューギニアでは戸籍や住民票が存在しない。だから、自分の誕生日や年齢を知らないという人は多い。
パプアニューギニアの人々は、ブアイを好む。ビートルナッツ、檳榔子(びんろうじ)、少量の石灰とマスタードと一緒に、口の中でくちゃくちゃと嚙む。このとき吐くつばは真っ赤になる。決しておいしいものではない。じわじわと口の中でしびれてくる。軽い酩酊感のような、ふわふわするような感覚。慣れてくると、これが癖になる。
5年に一度、国民全員が熱狂し、大騒ぎになるイベント。それが選挙だ。投票率は100%をこえる。一人で何度も投票する人が後を絶たないことによる。
パプアニューギニアでは贈収賄が犯罪にならない。そして候補者の公約違反は、裁判で訴えられることがある。
『ゲゲゲの鬼太郎』で知られるマンガ家の水木しげるは、ニューギニアのラバウルに行き、そこで、現地のトーライ族と親しくなった。
日常の買い物で「貝」を使うことはないが、公立学校の授業料や魚市場での支払はシェルマネーでもOK。冠婚葬祭では、むしろ現金は失礼で、シェルマネーを用意するのが礼儀である。
パプアニューギニアの食生活の基本は味がないこと。主食は、イモかサゴヤシ。味はなく、スープに灰で味をつけて食べる。
パプアニューギニアは、結婚の結納金として豚が重要なものとされているが、豚と並んでトヨタのランドクルーザーが交渉事の金額の基準にされている。未舗装の道を走るのは、トヨタのランクルだけ、ということ。パプアニューギニアでは、日本製品に対す信頼がいまだに絶大なのである。
こんな不思議な国が世の中には存在するのですね・・・。
(2014年11月刊。780円+税)
2015年5月25日
驚異の小器官・耳の科学
人間
(霧山昴)
著者 杉浦 彩子 、 出版 講談社ブルーバックス新書
年齢(とし)をとって、少し耳が遠くなっているようです。聞こえにくくなりました。同世代では補聴器をつけている人もいますが、幸い、まだそこまでではありません。
人間は、時間情報については、視覚よりも聴覚の方が優位な影響をもつ。目でとらえた変化に対して身体が動くよりも、音に反応して体が動く反応の方が早い。
素早い動きをしなければならないスポーツでは、聴覚が重要な役割を果たしている。
人間は、まず音を聞いてから、目で確認している。
聴覚障害の方が視覚障害よりも疎外感が深い。
胎児は、胎内で母親の心音や話し声を聞いている。
壊れた鼓膜は、すぐに再生してくる。耳鼻科では聞こえないのを治すため、わざと鼓膜を破ることがある。
キヌタ骨、ツチ骨、アブシ骨という耳小骨は、生まれたときから成人のサイズとほぼ同じ大きさをもつ例外的な骨。5万個ほどの神経細胞が小児期のあいだに、どんどん死滅して、10代では3万個台に減ってしまう。90代には1万個台になる。
母国語を聞き取るためには、小児期における神経淘汰が大切だ。これは、神経細胞の数を減らしていくことは、よく聞く言葉のパターンを覚えていくということ。
1歳までにある程度パターン認識できたかどうかが、その後の言語発達に重大な影響を及ぼす。言語の臨界期は6歳頃。言葉は、まず聞いて、話して、読んで、書いて、という4段階で発達していく。どんな複雑な言語も、まずは聞くところから始まる。繰り返し決まったパターンの発音を聞いていくことで言語を認識するための脳が育っていく。
音楽と言語では、脳の使い方が異なっている。言語中枢はあるが、音楽の方には中枢はないようだ。
最後に、耳垢について、著者は何もしないのがよいと強調しています。自然に出てくるのです。まあ気にはなりますけどね・・・。それだけのことなんです。
(2014年10月刊。860円+税)
2015年5月26日
イスラム国の野望
中東
(霧山昴)
著者 高橋 和夫 、 出版 幻冬舎新書
イスラム教全体の中ではスンニー派が9割を占め、シーア派は1割でしかない。ところが、イラクではスンニー派は2割だけ、残りの6割はシーア派と2割のクルド人。
2005年の選挙で初めてイラクでシーア派が権力をにぎった。
イスラム国で名前をきいて、アブー、バクル、ウマル、ウスマーンという名前はスンニー派。シーア派は絶対にこの名前を使わない。
シーア派がもっとも多いのはイラン。国民の9割がシーア派で、スンニー派は1割のみ。
イラクの治安悪化の元凶はアメリカの脱バアス政策による。イラクでは、何らかの専門機能を持った人の大半はバアス党関係者だった。この人たちをすべて排除すれば、当然に社会機能は麻痺する。
アメリカ中央軍の司令官となったペトレイアス将軍は、ゲリラ戦や、ゲリラになりそうな現地人への対応を重視した。その基本は敵を殺さないこと。殺さずに心をつかめとマニュアルは教える。また、あまり銃弾を撃たない。その代わりに金をばらまき、買収できる人間は、みな買収する。
現地人とは、きちんと目を見て話す。通訳は、中間ではなく自分の側に立たせる。
民衆の心をつかむのが大切だとペトレイアス司令官は言った。そして、ペトレイアスは、アメリカ軍の基地を大きなものから、小さなものに転換した。すると、はじめのうちは犠牲者が増えた。月80人が120人以上に増えた。しかし、翌年には月20人にまで減った。イラク人の死者も劇的に減った。さらに、インフラ整備を進め、店舗再開のための資金提供などで、民衆の心をつかんでいった。
ペトレイアス司令官は、スンニー派を買収していった。こうして、ペトレイアスは、2010年までイラクを安定に導いた。ところが、ペトレイアスは女性との不倫によってCIA長官を辞任してしまった。
シリアでは7割がスンニー派だが、国を支配しているのは人口の1割でしかないアラウィー派。残り2割の少数派であるシーア派やキリスト教徒は、アサド政権に寄り添っている。
1割が7割をおさえつけるというので、相当むごいことをしてきた。だから、権力を手放したら、すぐに仕返しされてしまう。
シリア内戦の核心は、アラウィー派街抱いている恐怖心だ。反アサド勢力のなかには、アラウィー派の有力者はいない。
アラウィー派の信仰は秘密主義であり、イスラム世界の大半の人からは異端と思われている。シリアの中でアラウィー派を要職にとりたてたのはフランス。1920年代の委任統治時代のこと。アサド大統領は、イスラム国とは真面目に戦ってこなかった。
イスラム世界では、カリフが国を統治する「カリフ制」が長く存続してきた。しかし、1924年にカリフ制は廃止された。
カリフに必要なのは、正統性。正統性がなく、実力で権力を握った人は「スルタン」と呼ぶ。黒いターバンを着用するのは、ムハンマドとの血のつながりを主張する意味をもつ。黒は、イスラム世界では預言者ムハンマドとのつながりを示すシンボルカラー。
イラン・イスラム国を樹立したホメイニも、現在のハメネイも黒いターバンを巻いている。
処刑される外国人が着せられている服はオレンジ。キューバのグアンタナモ基地にアルカイダ系の人間が収容されたときに着せられていた服がオレンジだったから。その仕返しだ。
クウェートでは、ゴミ箱の色はオレンジ色で、ゴミ収集人の服もオレンジ。イスラム世界ではオレンジ色は軽蔑のニュアンスがある。
イスラム過激派が過去5年間に人質とした欧米人は105人。その解放のために125億円が支払われ、それが過激派の重要な資金源となっている。ドイツ人やフランス人が標的になっている。アメリカ人やイギリス人は交渉に応じず、身代金を支払えないから。
自爆テロとは、きわめて現代的な現象である。自分たちもF15戦闘機があれば、それで突撃をする。ないから最後の手段に訴えている。これが自爆する側の理屈。
「自爆しても天国に入れる」から、「自爆したからこそ天国に入れる」というように変わり、英雄視されるようになった。殉教者として高い評価を得てしまうと、実行する者が跡を絶たない。殉教者は神の友という発想だ。
過激派を支援する富裕層がいる。これは、アメリカに対する反発から。日本人の想像する以上に、世界ではアメリカに反発する感情は根強い。
「イスラーム国」の根深さをしっかり解説している本です。とても勉強になりました。
(2015年2月刊。780円+税)
2015年5月27日
ドクター・ハック
日本史(戦前)
(霧山昴)
著者 中田 整一 、 出版 平凡社
ドイツ人であるフリードリッヒ・ハックは、1887年10月にドイツのフライブルグで生まれた。大学で経済学博士になったことから、ドクター・ハックと呼ばれるようになった。
まさしく波瀾万丈の生涯を送りました。第一次大戦では中国の青島にいて、27歳で日本軍の捕虜となります。すでに日本にいたことがあり、日本語を話す捕虜として貴重な存在でした。このとき、日本はドイツ将兵の捕虜を虐殺するどころか、高給優遇したのです。
それでも、将兵は脱走を試みるのです。ドクター・ハックは脱走の手伝いをしました。5人のうち1人は捕まりましたが、残る4人は無事にドイツに帰り着いたのでした。
ドクター・ハックは、逃亡幇助の罪で懲役1年6ヶ月の有罪となりました。収容された習志野俘虐収容所の所長は、53歳で病死してしまいましたが、西郷隆盛の長男でした。
ドクター・ハックは、1920年に釈放された。そして、33歳のドクター・ハックは、日本海軍や兵器産業のためにドイツの先進技術導入のエージェントになった。
ドイツに日本を紹介する映画が企画されました。そのとき、日本をよく知るドクター・ハックが活躍したのです。はじめは田中絹代が日本の女優として考えられていました。しかし、ファンク監督が原節子を見て、そのトリコになってしまったのです。
原節子は、日本を代表する大女優ナンバーワンだと思いますが、その引退後、今なおご存命にもかかわらず、一切その姿が報道されていません。立派ですね。個人情報の秘匿というのは、こうでなくてはいけないと私もつくづく思います。
ドクター・ハックは、満州国の溥儀皇帝にも面会しています。そして、ナチス・ドイツのカナリス提督の下で、スパイ活動をしていました。これは、ヒットラー・ナチスに共鳴していたのではなく、むしろ逆なのです。カナリスはドイツ敗戦前の直前にヒトラーによって処刑されています。
ドクター・ハックは、突然、ドイツの秘密警察「ゲシュタポ」に逮捕された。罪名は「同性愛」。まさしく、冤罪。ナチスの権力機構内の抗争によるもの。そして、ドクター・ハックを日本海軍が救った。
ドクター・ハックは、日本の終戦工作にも関わったようです。
いま、日本では戦前に間違ったことなんかしていないなどと開き直った言説があり、それをもてはやす人々がいます。しかし、日本人の権力者が間違いを犯し、日本という国の内外であまりにも大きな被害を与えたことは消せない事実です。それを無視して、日本はアジアにとっていいことをしたのだと言い張っても、まったく説得力がありません。もう少し、勇気をもって事実をみてほしいものです。
(2015年1月刊。1700円+税)
2015年5月28日
「女、東大卒、異国で失業。50代半ばから生き直し」
社会
(霧山昴)
著者 栗崎 由子 、 出版 パド・ウィメンズ・オフィス
50代の海外で一人暮らしの女性が、突然リストラにあって失業したとき、どうやって明日から生きていくのか・・・。現在進行形のブログが本になっていますので、臨場感たっぷりです。
東大教養学部を卒業してNTTに就職し、カナダに渡って、フランス、スイスと移り住んで働いていたのです。すると、突然、リストラに遭って失業してしまいました。そこから、苦難の就活が始まるのです。
ジュネーブの日本寿司店でレジ係のアルバイトをしていたこともあるようです、なるほど、中年の日本人女性がスシ店でレジ係にいたら、客は安心しますよね・・・。
といっても、私はせっかく海外へ旅行するときには、日本食は食べないように心がけています。現地の食事を楽しみたいからです。日本のカップラーメン持参なんて、とんでもありません。
人間、無視されるほどの心のエネルギーを奪われることはない。就活のための履歴書を200通ほども送ったのに、まったく反応がなかったときの著者の総括です。
ある日、友人から、仕事とは、他の人があなたにしてほしいことだ、そう言われた。なるほど、そうだったのか・・・。それまで、仕事とは、自分の得意なことを他の人にオファーする、指図することだと思っていた。ここで価値観が逆転した。
別の友人は、こう言った。せっかく失業したんだから、その体験記をブログに書くのよ。それで、「失業してスイスに暮らす」というブログのタイトルが決まった。
家庭教師の給料の値段決めの交渉は、初回が最後と思え。仕切り直しは不可能。
スイスのジュネーブの寿司店で、
「マクドナルドは、どこに店を出せばもうかるのか、お金をかけてちゃんと調査している。だから、その近くに店を出せばいい」
なーるほど、私も初めて認識しました。そう言われたら、そうでしょうね・・・。
応募書類を送ったあと、1週間たっても面接の連絡がないときには、きっぱりあきらめ、次を探すこと。
学んだら、すぐに行動に移せ、初めてのことは、必ず失敗する。失敗をくり返せ。できるまでチャレンジせよ。できるまで覚悟があるかどうかだ。
仕事が見つかったとき、楽しいというより、安心できることがありがたい。それが本心だった。
どんな仕事にも、それを必要としている人がいる。どんなに単純で、誰にでもできそうに思える仕事でも、簡単なものは何ひとつない。すべて、経験と熟練が必要なのだ。
日本で仕事をしていたときは、上司や同僚から、あなたはモノをはっきり言いすぎると言われた。ところが、ヨーロッパに来て20数年たっても、もっとはっきりモノをいいなさい、ヨーロッパの友人には、このように言われ続けている。
人は言わなければ、分かりあえない。そして、人はいつも相手の耳に心地よいことばかり言って生きていくことは出来ない。
そういうとき、自分を、自分の考えをどうやって相手に伝えるか、相手の心の壁を低くできるか、そこが生きる力の腕試しというものではないか・・・。伝わると、うれしい。
舌に油を塗る。舌に油を塗って、日本語で、安心して、洗いざらい、心の中をコトバにして外に出してしまう。これが、最高の心のクスリであり、最高の娯楽であり、最高のバカンスだ。それは日本語でないといけない。他の言葉では、自分の心をここまでトコトン語りきれない。これを半年に1回しないと、どうにもいけない。こうやって、頭と心を整理し、心の垢落としをする。
ここのところは、なんとなく、私にも分かります。やっぱり母国語というのがあるのですよね。
今では、しっかり働き、そして50代女性の求職支援ワークショップまでしているそうです。たいした女性です。ひとまわり年下の元気な女性です。一度、お会いしたいものです。
(2014年7月刊。2500円+税)
2015年5月29日
政党助成金に群がる政治家たち
社会
(霧山昴)
著者 小松 公生 、 出版 新日本出版社
政党って、同じ目的をもった有志の集まりのはずなのですから、自前でお金を集めて維持するのが当然でしょう。それを支持してもいない国民の税金で維持するなんて、そもそも考えが間違っています。堕落のはじまりです。
しかも、企業献金を禁止するので税金で補助するという話だったのが、今や企業献金は堂々と復活しています。だったら、政党助成金は即刻廃止すべきです。
そのうえ、この政党助成金の使い方はまるでデタラメです。こんなことを許している政権党が、子どもに対して学校での道徳教育に熱心だというのですから、アベコベとしか言いようがありません。だから「アベ」コベと言うのですね・・・。
国会議員が一人しかいない「政党」に2年も3年も、1億円以上もの税金が投入されている。理不尽としか言いようがない。
助成金をもらって消えたサギ政党、「年末新党」というのは、政党助成金を受けとるためだけに結成され、最大の「使命」であり、「任務」であり、「目的」である助成金の受け取りさえ終われば、雲のごとく霧のごとく消えてしまった「党」のこと。
政党助成金をもらうために、とにかく5人以上の国会議員が寄り集まる。5人の政党を立ち上げるだけで、議員一人あたり数千万円の政党助成金を労せずして手にすることができる。国会議員の年間の給与(議員歳費)は2000万円。その2~3倍ものお金がもらえるのだ。
1994年以来、42もの政党が誕生し、そのうち33党が解党あるいは消滅した。これらの政党の平均寿命は、なんと2年。
政党助成金が党収入の半分以上を占めるのは、民主主義や政党活動の原点に照らして正しくない。自民党も、当初は、そのように明言していた。
政党助成金の最大の支出項目は、宣伝事業費。これはメディアのピンチを救っている。メディアの収入全体に占める広告費の割合は、新聞で半減、テレビは32%が30%へと減っている。それを埋めているのが政党助成金による宣伝広告費。メディアにとって、政党助成金を原資とする広告費が干天の慈雨になっている。
政党助成金の使い方はデタラメだ。議員たちの飲み食いに使われ、また選挙の供託金としても使われている。
麻生太郎は、六本木の会員制サロンバーで、1回100万円、1年間で800万円も政治活動費として使っていた。うひゃあ、これって許せませんよね・・・。
これまでに消滅した政党に配分された助成金のトータルは745億円。自民党の収入の3分の2が、この政党助成金。
典型的な税金のムダづかいが、この政党助成金です。1995年から、2014年までの累計6311億円もの税金が、意味もなく、不合理に費消されてしまいました。すぐに廃止しましょう。私は怒っています。こんな不合理は許せません。今日の生活に困っている国民がいるというのに、こんなムダづかいが横行しているなんて、日本の政治は狂っているとしか言いようがありません。
(2015年4月刊。1400円+税)
2015年5月30日
フランソワ一世
ヨーロッパ
(霧山昴)
著者 ルネ・ゲルダン 、 出版 国書刊行会
フランス語を毎日、毎朝、NHKラジオ講座を聴いて勉強しています。大学で第二外国語としてフランス語を選択しました。フランス料理を食べたい、フランス美人と親しくなりたいの二つが動機です。18歳のときでした。フランス料理の方は、メニューを読め、注文できるようになりましたが、フランス美人とは残念ながら、まったく縁がないまま今日に至っています。本当に残念です。それでも、めげずくじけず、40年以上フランス語を勉強しています。毎週土曜日の午前中はフランス人と会話し(相変わらず、うまく話せません)、自分で運転する車のなかではフランス語講座のCDかシャンソンを聴いています。頭の老化防止に語学は最適です。そして、年に2回はフランス語検定試験を受け、できないものの悲哀をたっぷり味わいます。仏検準一級には何回か合格しましたが、挑戦中の一級にはまるで歯が立ちません。それでもフランス語を勉強していると、世界が広がる楽しさがあります。つとめてフランス映画をみるようにしていますが、セリフが聞きとれて分かるときは、うれしいものです。
そんなわけで、フランス・ルネサンスの王として有名なフランソワ一世の評伝を読みました。500頁もの大作ですので、骨が折れました。レオナルド・ダ・ヴィンチを招来したフランス王です。ドイツ皇帝カール五世と何度となくたたかった国王でもあります。
フランソワ一世は、絶対王制の基礎を築き、宗教戦争の種をまいた。ルネサンス文化への道を開き、女性の地位を復権させた。16世紀前半である。
1547年1月末、フランソワ一世は52歳の若さで亡くなった。梅毒ではなく、淋病による死と思われる。
フランスは当時2000万人の人口を擁していた。18世紀のフランス大革命時には2500万人の人口だった。ヨーロッパでは群を抜いて人口の多い国だった。
フランソワ一世の前国王はルイ12世。即位するには、同輩衆の同意が必要だった、封建制の王国なのである。
フランスでは、ただ一人の人物(国王)の統治にしたがっている。スペインやドイツでは、封建的であって、直接税は当事者の合意がなければ徴収されなかった。そして、常に当事者は不平を鳴らした。
フランスの貴族階級は、外国人からみて驚嘆するほど真の尊敬の念をもって国王を取り巻き、華やかに王の供をし、立派に王に仕えることだけに心を砕く。ところが、ドイツの諸侯にとって、カール皇帝は外国人であった。スペインの貴族階級も自分たちの特権に執着していた。尊大で、疑い深く、激しくやすく、古い偏見の持ち主だったので、王から延臣服を受けとるのを潔しとしなかった。おまけに地方主義者だったので、国王や皇帝の世界的な企てを渋々としか支援しなかった。うひゃあ、これは、かなり違いますね・・・。
フランソワ一世はドイツ皇帝カール五世とは何回も戦争します。負けて捕虜になったこともあります。
戦争に明け暮れた国王ですが、部下の掌握は、今ひとつでしょうか・・・。
フランソワ一世は、活力旺盛で幸福な君主であり、いつでも笑うことのできる君主である。生きる喜びで、すべてを明るくする王なのだ。
フランソワ一世は、いつでも陽気であり、だからといって威厳を少しも損なわなかった。
食事のとき、ナイフはあったけれど、フォークはまだ普及していない。スプーンもほとんどつかわれていない。要するに、指で食べていた。
16世紀のフランスについて実情を知ることができました。
(2014年12月刊。6000円+税)
2015年5月31日
インドでバスに乗って考えた
インド
(霧山昴)
著者 ボブ・ミグラン 、 出版 カドカワ
私が行っていない外国はたくさんありますが、そのなかでもインドは大国です。
インドで思いがけなく、愉しくて興味深い経験をした。そのため、秩序正しくコントロールしなければならないという考え方が打ち砕かれた、それは幸いだった。
混沌を征服することは決して出来ない。できるのは受け入れることだけなのだ。混沌を受け入れると、次にはそれを愉しむことができるようになる。
コントロールを諦めることは、今までにない新鮮な可能性に通じる、素晴らしく自由な経験となる。人生における決断は、どれだけ多くの情報をもっているかではなく、前に進んでいくうちに状況に適応し、ぶっつけ本番でやっていけると信じる力しだいなのだ。
完全なものを持っていれば、どこにもたどり着けず、ただ心配や悩みやストレスを生み出すだけである。なぜなら、それは存在しないものを待っているからだ。この世には、完全な仕事も、完全なパートナーも、完全なキャリアも、完全な瞬間も存在しない。あるのは、人間と、仕事と、瞬間だけ。
物事は、こうあるべきだという考え方から解放され、あるがままの状況を受け入れる。
物事は、あるがままにまかせ、他人が何をするなど気にせず、自分のしていることに集中すること。自分を成長させることに力をふり向けることだ。
ライバルのことで頭を悩ませても何の意味もない。他人(ひと)を理解しようとするよりも、自分と自分の考えに集中することのほうが大切。他人が何と言うか、どう考えるか、どう行動するかを考えていたら、自分を見失ってしまう。
多くの人は、人生の問いに対する答えが自分たちの外側のどこにあると思って、人生の疑問にこたえてもらうことを期待する。しかし、実際のところ、神は、その人たちが自分自身で答えを得られるよう、そのための静寂や時間を与えようとしている。なぜなら、あなたのあらゆる疑問に対する問いに対する答えは、常にあなた自身のなかにあるのだから・・・。
インドには行ったことがありませんが、まさしく混沌そのものの国というイメージですよね。
発想の転換が必要なんだと思わせてくれる本でした。
(2015年2月刊。1500円+税)