弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年4月21日
言論抑圧
日本史(戦前)
(霧山昴)
著者 将基面 貴巳 、 出版 中公新書
著者の名前は、「しょうぎめん」と読むそうです。珍しいですね。そして、貴巳は「たかし」です。アメリカの大学で准教授をしているとのことです。
矢内原(やないはら)事件というのが、戦前の1937年(昭和12年)に起きました。矢内原東大教授が「筆禍事件」を起こしたとして、東大教授を辞職した事件です。
私にとって、矢内原という名前は、矢内原門という小さな門に結びつきます。
東大駒場寮で2年間ほど生活していましたが、夜遅く腹を満たすために寮を出て下方にある商店街へ繰り出すときに必ず、この小さな門を通るのでした。門といっても何もありません。ただ、ここが矢内原門と呼ばれていると、先輩の寮生から教えられただけです。九州にはないタンメンを食べたり、少しぜいたくするときには、レバニラ炒めを食べたものです。当時は、私も20歳前ですから、食欲旺盛で、夕方6時に寮食堂で夕食をとると、午後10時過ぎたらお腹が空いてくるのです。
戦前・戦中の論壇を主として支えたのは、日刊新聞ではなく、総合雑誌だった。
矢内原は、総合雑誌を舞台として、徹底した平和の主張を展開していった。
キリスト教の信者である矢内原にとっての愛国心とは、あるがままの日本をアイすることではなく、日本が掲げるべき理想を愛することだった。したがって、現実の日本が、その掲げるべき理想とくい違うときには、現実を批判することこそが、愛国心の現れだと考えた。
矢内原にとって、国家を国家たらしめる根本原理としての理想は正義にほかならないかった。その正義とは、国家のつくった原理ではなく、反対に正義が国家をして存在せしむる根本原理である。国家が正義の内容を決定するのではなく、正義が国家を指導すべきなのである。正義が国家の命令であるとしたら、国家の命令するところであれば、何でも正義であることになってしまう。したがって、正義は国家を超えるものでなければならない。
政府にとって、その政策を遂行するうえで、もっとも望ましいのは、国民のなかに反対者がいないことである。したがって、批判を弾圧し、政府の施策を宣伝することに政府はつとめることになる。
政府の決定が理想に反する場合には、これに異議申し立てすることこそが、真に愛国的なのである。
矢内原は、聖書にもとづいて、このように主張した。
矢内原論文で「国家の理想」を論じた時に、決して激しい政府攻撃を意図したのではなく、むしろ穏当なものだった。それだけに、矢内原の論文が筆禍事件のきっかけを作ることになろうとは本人は夢想だにしていなかった。
キリストの教えによれば、キリスト者たるもの「血の塩」である。現実の不義を批判しない者は、味のない塩である。このように述べて、矢内原は、政治への態度決定を聴衆に迫った。
「今や、キミが感じるよりはるかに険悪なる時代になった。きのうの講演も、会場できいたら当たり前のようなことが、文章で読んだら意外の感を受けるだろう」
今の日本で、ひょっとして、同じようなことが進行中なのではないでしょうか・・・。ヘイトスピーチが横行し、安倍首相の「我が軍」発言が大問題にもならず、自衛隊が海外へ戦争しに出かけようとしています。とんでもない状況なのですが、マスコミは、その危険性を国民に強く訴えていません。あまりにも引け腰です。インチキな与党協議ばかりが大きく報道されています。本当に「戦前」に戻りそうで、怖いです。
蓑田胸喜という戦前の狂信的な右翼イデオローグがいました。今でいうと、桜井○○子にでもあたるでしょうか・・・。
矢内原は、この蓑田からの批判に対して、まったく応答しなかった、見事と言えるでしょう。しかし、やはり反論の事由があれば反論すべきだったと私は思います。
当時の東京帝大経済学部内では、教授陣に派閥があって、激しく抗争していたようです。
それにしても、矢内原教授がまともな論文を書いて、それが攻撃されたとき、東大当局が矢内原をかばいきれなかったのは残念です。時流におもねってしまったのです。
矢内原事件の教訓は、戦後70年の平和が安倍内閣によって「戦前」に変わりつつあるという昨今の状況のなかで生かされるべきだと思いました。
(2014年9月刊。840円+税)
庭にビックリグミの木のてっぺんにカササギが巣をつくっています。初めてのことです。下で見上げていると、さすがに人間が見ている前では具合が悪いと思うようで、枝を口にくわえたまま別の木の方へ飛んでいきます。隠れて見ていると、二羽でせっせと巣作りに励んでいます。初めての小枝の組み合わせが難しいと思います。よく落ちないように、しかも強風で飛ばされないように見事につくるものですね。感心します。
アスパラガスを毎日つんで、食べています。濃い紫色のクレマチスが咲きはじめました。