弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年4月20日

手のひらから広がる未来

人間

                               (霧山昴)
著者  荒 美有紀 、 出版  朝日新聞出版

 私の娘も、大学院生としてパリに留学中に突然、弱視になり、今は盲学校で鍼灸師の勉強をしています。世の中には、いきなり信じられない病魔に襲われることがあるのです。
 この本の著者は、大学生の時、突然耳が聞こえなくなり、また視力を失ってしまったのでした。いやはや、大変な事ですよね。耳も目も不自由だなんて、想像も出来ません。それでも、大変な苦難をついに乗り越えていくのです。読んでいて、人間って、すごいと思いました。そして、彼女を支える人たちがたくさんいるのに救われます。一人娘を支えた両親の苦労は、いかばかりだったでしょうか・・・。
 ヘレン・ケラーになった女子大生というサブ・タイトルがついています。今では著者に彼氏もいて、明るく前向きに生きていますが、そこにいたるまでの苦しみと悩みが、本人によって語られています。ついついホロリとさせられました。難病の名前は、神経繊維腫症Ⅱ型(NF2)。聞いたこともありません。
身体にできた傷を治す分泌液は人間の誰もがもっている。ところが、この病気になると、傷が治ったあとも分泌が止まらない。そのため、身体中のどこかに腫瘍ができて、いろいろな神経を圧迫する。
 はじめ、難聴となり、19歳のときに右手がマヒし、22歳で耳が聞こえなくなり、やがて目も見えなくなった。目と耳の両方に障害をもつ人を「盲ろう」という。東大教授でもある福島智(さとし)氏も盲ろうだ。著者はそのうえ、腰にも障害が出て、車いす利用者になった。
 著者は、16歳までは視力も聴力も問題がなかった。だから、今でも、色や草花の形や人の声、ピアノなどの音色が容易に想像できる。
 盲ろう者にとって、人間の最低限の要求である、安心と安全感が日常生活にない。日常生活そのものがサバイバルなのだ。ごはんを食べるのも、毎日がヤミナベ(闇鍋)状態。
 最初に耳の不調を感じたのは、高校1年生の夏のこと。それで、3ヶ月に1度は、中国へ行き、中日友好病院の国際医療部で治療を受けた。
 著者は、明治学院大学文学部のフランス文学科に合格した。
 ところが、よく聞こえない。そして視界がどんどん白くなっていく・・・。
 福島智教授は、5時間も著者に向かって話をしてくれた。もちろん指点字での会話。
死なない。めげない。引きこもらない。転んでも叩きのめされても起き上がろう。しっかり前を向いて歩いていこうということ。命ある限り、生きよう。
 著者のような盲ろう者は、日本全国に1万5000人いると推計されている。しかし、派遣事業の利用登録をしている盲ろう者は1000人もいない。
著者は指点字を1週間で習得したというのです。すごいですね。そして、周囲の人たちもそれを学び、著者との交流を深めていったとのこと。本当に心温まる話です。
 つらい大変な日々も多いことでしょうが、これからも、めげず、くじけず、前を向いて生きていってくださいね。こんないい本を読むと、心が洗われる思いがします。あなたもぜひご一読ください。
(2015年3月刊。1200円+税)

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