弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年4月18日

プラチナタウン

社会

                               (霧山昴)
著者  楡 周平 、 出版  祥伝社

 舞台は東北のさびれゆく町です。冬に雪に埋もれてしまうという点こそ違いますが、東北も九州も、田舎に残っているのは年寄りばっかりという点では、まったく同じです。
 そんな町が、ハコモノだけはどんどん造ってしまうのです。もちろん、その利用者なんかいなくて、宝の持ち腐れ、町は大赤字を抱え込んでしまいます。それでも、公共工事を請け負った土建業者と政治家は大もうけするのです。この本に欠けているのは、公共工事を取り仕切っている暴力団が登場しないという点です。そして、悪役として、古狸の町会議員はいるのですが・・・。
主人公は大手総合商社の部長にまで登りつめているサラリーマンです。ところが、実力ある取締役ににらまれて、子会社へはじき飛ばされようとするのです。そこへ、故郷の町をよみがえらせる救世主になってほしいという話が飛び込んできたのでした。
 なんとかマッケンジーといったコンサルタント会社への、次のような痛烈な皮肉もあります。まったく同感至極です。
 コンサルタントの話をまともに受けて事業が成功するのなら、苦労はしない。連中の能力がそれほど高いというのなら、世の中につぶれる会社なんて、ありやしない。世の中に存在する会社で、少なくとも一流と目される企業でコンサルタント出身の社長なんて、ただの一人も存在しない。それが何よりの証拠だ。
 真の公共事業とは、一時のカンフル剤であってはならない。恒久的に利益を生み、雇用を確保するものでなければならない。
 この本では、工場を誘致しようとして整備した3万坪の土地に定年退職後の人たちの住める町づくりをしようという企画が進行していきます。たしかに、私たち団塊世代が引退後の生活を、どこで、いかに過ごすかは、国家的な関心事のはずなのです。ところが、いま十分な対策がとられているとは、とても思えません。
 この本では、赤字再建団体寸前の田舎を、外国に住んだこともある総合商社の部長が町長になって、町の特産を生かしつつ、高齢者本位の町づくりに成功したというストーリーです。現実には、それほどうまく行かないように思いますが、こんな取り組みが本当にあってほしいものだと思いました。介護施設というのは、若者の働く場でもあるのですから・・・。ご一読をおすすめします。
(2008年7月刊。1800円+税)

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