弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年3月17日
恋するソマリア
アフリカ
著者 高野 秀行 、 出版 集英社
実に面白い本です。知らなかったことを知る喜びに包まれる本なのです。
『謎の独立国家ソマリランド』も大変面白く読みましたが、この本は、前著にもましてソマリアの尽きせぬ魅力を徹底的にレポートしています。
その白眉がソマリア料理をつくる体験です。ソマリア女性にソマリア料理を教えてもらい、一緒につくるのです。なーんだ、と言うことなかれ。男性が大人の女性と接することはありえない社会で、それを実現したというのですから、それは賞賛に値する偉業なのです。
あるグループの人々を理解するための文化的な三大要素は、言語、料理、音楽だ。
ソマリの一般家庭に入ってソマリの家庭料理を習いたい。しかしソマリ人は、素の姿を見られたくない。ソマリ世界の台所こそ「アフリカの角」における最大の秘境ではないかと思わせるほど、その接近は困難だった。
ソマリアでは、煮炊きはすべて炭とソマリ式七輪で行っている。ソマリア人は、御飯でもパスタでもサラダでも、つまり何にでもバナナを上に載せ、一緒に食べるのを好む。バナナを3センチほどに切って上に散らしておくのがソマリ風なのだ。
ソマリ料理は、なんでもとりあえず粗みじんに切ったタマネギを油で炒めるところから始める。そのあと、肉や米や野菜を入れる。ニンニクを入れるのは、日本と違って、常にラストに近い。ソマリ料理のつくり方の特徴は、とにかく「てきとう」ということ。
ソマリ人は誇り高い民族であり、自分たちのことを世界に知られたいとは、ちっとも思っていない。その反面、冷徹なアリストでもある。世の中を動かすのは、しょせん、お金と武力であると正しく理解している。
ソマリ語は複雑で、風変わりで、あまりにも難しい。ソマリ語に比べると、フランス語やアラビア語ですら、文法構造は単純かつ素直に思える。
ソマリランド(ソマリアの北方の国)の人々は、実に熱心に本を読む。道端の茶屋では、おしゃべりと新聞のまわし読みが二大娯楽となっている。
テレビとかインターネットは、どうなっているのでしょうか・・・?
ソマリランドは、イスラム国家なので、酒は所持も持ち込みも禁止されている。
ソマリランドが平和なのは、土地が乏しいうえに、何の利権もないから。
伝統的な民族社会に生きているソマリ人は、「自分とは何者か?」とアイデンティティに悩む余地が少ない。
一般にソマリ人は非常に飽きっぽくて、他人の話など5分と聞いていられない。ところが、カート宴会だけは3時間も続く。アルコールの代わりに、カートという木の葉を口中に入れてかみ。「酔って」しまう。
ソマリ人は、驚くことに、若者をふくめて誰も西洋の音楽を聴かない。ソマリ人がソマリ語でうたうソマリ・ミュージックをきいている。
ソマリ人は世界じゅうに300万人いるが、外国人と結婚する人は1%もいない。
故郷にソマリ人が送金するのは、故郷で認めてもらいたいがため。
ソマリ人は、めったに客を自分の家に呼ばない。もし客を呼ぶなら、徹底的にもてなさなければいけないという使命感にかられるから。
ソマリアではジャーナリストが殺されている。この5年間で11人のジャーナリストが殺された。暗殺された8人のうち7人は、モガディショのジャーナリスト。
ジャーナリストは、女性が一番なりやすい職業。ソマリアでは、何をするのも氏族単位だけど、ジャーナリストは違う。
ソマリアでは、メディアも政治家も公正ではないし、手段を選ばない。
ソマリ人の氏族へのこだわりは、病気というほかない。おなじ氏族の人間しか信用しない。
氏族で人間を判断する。別に理由もなく、誰がどこの氏族か知りたがる。一言でいえば「氏族依存症」だ。
ソマリ人は誰にも助けを求めていない。一方的な同上や愛情を必要としてもいない。
野生のライオンみたいな存在だ。
ソマリアのボガデイショでアメリカ軍の精鋭が群衆と戦った映画「ブラックホークダウン」を思い出しました。そのモガデイショに日本人のジャーナリストが素手で、もちろん護衛兵つきで取材した体験記です。こんな勇敢なジャーナリストが存在するおかげでソマリアのすばらしい素顔を知ることができるのです。ありがたいことです。
日本の自衛隊がソマリアの海賊を逮捕して東京地裁で刑事裁判にかけたとき、著者は通訳をしたようです。ソマリア語が話せる日本人に出会って、びっくりしたといいます。
やっぱり武力(軍事力)一辺倒では何事もなしえないことを、この本でも思い知らされます。ご一読をおすすめします。
(2014年10月刊。780円+税)
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