弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年3月16日

跳びはねる思考

人間


著者  東田 直樹 、 出版  イースト・プレス

 自閉症の人の素顔を初めて知った思いでした。
 本人の書いた文章とインタビューによって、自閉症の人がどういう状況にあるのか、どんなことを考えているのかが、よく分かります。
 青空を見ると泣けてくる。空を見ているときには、心を閉ざしていると思う。周りのものは一切遮断し、空にひたっている。見ているだけなのに、すべての感覚が空に吸い込まれていくよう。この感じは、自閉症患者が自分の興味のあるものに、こだわる様子に近い。
 ひとつのものしか目に入らないのではなく、言いようもなく強く惹かれてしまう。それは、自分にとっての永遠の美だったり、止められない関心だったりする。心が求める。
 声は呼吸するように口から出てしまう。自分の居場所がどこにあるのか分からないのと同じで、どうすればいいのかを自分で決められない。まるで壊れたロボットの中にいて、操縦に困っている人のようなのだ。
 ひとりが好きなわけではない。ありのままの自分で、気持ちが穏やかな状態でいられることを望んでいる。
 必要とされることが人にとっての幸せだと考えている。そのために、人は人の役に立ちたいのだ。
動いているほうが自然で、落ち着ける状態なのだ。行動を自分の意思でコントロールするのが難しい。そのため、気持ちに折りあいをつける必要がある。だから、時間がかかる。
 自閉症という障害をかかえていても、ひとりの人間なんだ。
 表情を自由自在に変えるなんて、信じられないこと・・・。
 現実世界は、ふわふわした雲の上から人間界を見ているような感覚だ。
 話せない自閉症者は、人の話を聞くだけの毎日。知能が遅れていると思われがちだが、そうとは言い切れない。人の話を黙って聞く。こんな苦行を続けられる人間が、世の中にどれくらいいるだろうか・・・。
 著者は、アメリカなど外国にまで出かけて講演しています。
 講演会などで他の土地へ行くと、心が解放された気分になる。誰も自分を知らないという状況が心地いい。
 質疑応答とは、疑問に回答するだけでなく、登壇者と参加者の心と心をつなぐかけ橋のような対話だ。相手を思いやりながら、言葉をかわすことに意味がある。
 自閉症の人の置かれている世界を垣間見ることのできる本です。
(2015年1月刊。1300円+税)

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