弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年3月 5日

イスラム戦争

社会


著者  内藤 正典 、 出版  集英社新書

 日本がやるべきことは武力行使ではない。憲法9条の戦争放棄、あくまで平和外交を主体としたものであるべきと力説している本です。著者は現代イスラム地域研究を専門とする同志社大学大学院教授ですので、イスラムとは何か、ムスリムそしてイスラム国の現実をふまえた提言がなされていて、とても説得的です。
もともとムスリムは戦争に向いていない。イスラムを創始したムハンマド自身が商人出身だった。都市に暮らす商人の宗教としての性格が色濃く映し出されている。
 トルコ政府は、アメリカ主導の中東における軍事力行使には、これまで一度も参加したことがない。中東におけるアメリカの最大の同盟国であるトルコは、集団的自衛権の行使について、きわめて慎重かつ、アメリカの意にそわない決定を続けてきた。
 トルコは、PKKとの長い戦いのあげく、テロ組織とはいえ、軍事力でつぶすことは出来ないことをよく知っている。したがって、イスラム国に対する武力攻撃に加わっていない。
 安倍内閣が進めている集団的自衛権の行使容認は、日本にとってとてつもない危険と不利益をもたらす。
 アメリカの戦争に日本が加担するということは、あまりに世界を知らなさすぎる。地球は、アメリカを中心にまわっているわけではない。現在の状況で、中東において日本が軍事協力を求められたとき何をすべきかと質問されたら、自分は「何もしてはならない」と答える。
 アメリカが日本に対して集団的自衛権行使を求めてきたら、それはイスラム圏である可能性が高い。アメリカの情報をもとに武力行使に日本が協力したら、世界じゅうのムスリムを敵に回しかねない。世界のムスリム人口は、あと十数年で20億人をこえるだろう。
 多くのムスリムにとって、アメリカという国家のイメージは、子殺しであり、母殺しである。圧倒的に悪者のイメージが強い。
 イスラム国を武力で叩けば叩くほど、事態は悪化していく。
 「勇ましい」安倍首相に拍手する日本人は少なくないという現実がありますが、実は、それは日本という国と日本人にとって大変な危険をもたらすことになることを、きわめて冷静かつ実証的に説明した本です。今、多くの日本人が読むべき本として一読を強くおすすめします。
 ちょうどこの本を読もうとしているところに、奈良の峯田勝次弁護士から、ぜひ読むようにというハガキが届きました。峯田先生、ありがとうございました。
(2015年2月刊。760円+税)

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