弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2015年2月19日
日本人の値段
中国
著者 谷崎 光 、 出版 小学館
日本人の技術者が中国へ数千人ほど渡って、中国企業で技術指導している実情をレポートしている本です。
韓国では年俸5000万円というように高給だけど、スキルと情報だけを取り出したら日本人技術者は、使い捨てされる。これに対して、中国は、もう少し長いスパンで見る。
中国企業で働く日本人の車のエンジニアで年俸3600万円(200万元)という人は少なくない。多いのは2700万円(150万元)ほど。ただし、これに加えて、高級マンションが用意され、通訳と送迎がつく。年に数回の日本への帰国費用も会社が負担する。
設計図や断面図を見て、ここで問題が発生すると分かるようになるまでには何十年もかかる。成功体験は意味がなく、不具合をどれだけ経験しているかが、エンジニアのレベルを決める。こういう技術者を中国企業は求めているのです。
日本人は、みんなで力をあわせて開発することにはバツグンに強い。
日本のエンジニアは、信頼性に命をかけている。中国人の安全意識は極端に低い。車の品質由来による日常の事故は、圧倒的に中国産の車が多い。
中国の金持ちは、中国の純国産車には乗らない。国家のリーダーの乗る国産高級車(紅旗)も、エンジンとトランスミッションは日本製である。外観は中国製だが、中身は日本製というのは、北京の地下鉄や高速鉄道のように、けっこう多い。ちなみに、日本車では、日産のほうがトヨタより人気があり、売上げも多い。
中国で高級車に乗っているのは、一党独裁を最大限に利用して、大バクチを打って巨額のお金をつかんだ人々である。中国の金持ちは、日本車の客に合わせたような従順な感じを嫌う。だから日本車は選ばない。
中国の会社は、どこでも全部門に不正のチームがはりめぐらされている。
中国のあらゆる組織、あらゆるお金とモノとサービスが動くところ、不正のないところはない。低価格の部品へのすり替え、製品の横流し、処分品の横領、仕入れ先からのバックマージンなど以外に、サービスセンターなら修理費のごまかし、製品の消耗品の転売、おまけの販売など、さまざまな手口がある。
日本の企業には、必ず基礎研究と開発研究の両方がある。これに対して、中国の研究所は、買ってきたものをバラして単に設計する場所でしかない。
ところが、家電のような身近なものでも、分解して研究し、そのまま再現できるかというと、そうではない。同じものを安定した品質で何万個もつくるのは難しい。開発は、技術のない中国には、不可能なのである。そこで、技術者の引き抜きに走る。一番安上がりである。
技術とは、設計図や一つの工程の特殊な作業だけではなく、総合力が必要であり、それが生産技術なのだ。日本は、これが強い。
中国へ進出している日本企業は、2012年時点で1万4000社以上。
中国の企業にいる日本人技術者は3000人以上。そして、中国からの日本人技術者への求人は増える一方なのである。
中国で暮らしていると、モノの品質の良し悪しを決めるのは、最後は素材だということが、良く分かる。優秀な部品をつくる素材の基礎技術は買えない。
日本人技術者は、相手に合わせて、うまく調節できるから、中国企業から非常に評判がいい。柔軟な日本人は、実はタフなのかもしれない。
日本の中小企業は、たしかに中国から撤退している。しかし、大企業は引くに引けない。日系の企業数は減っているが、一社あたりの社員数は増えている。
中国において日本人技術者がひっぱりだこだという実情を知ると同時に、その理由も分かりました。いろいろ勉強になる本です。
(2014年12月刊。1300円+税)
東京は有楽町の映画館で「ミルカ」をみてきました。2時間半の長大作ですが、映像にひきずり込まれ、あっという間でした。
インド映画につきものの歌と踊りはほとんどありません。どうやら監督が嫌いのようです。
1960年のローマオリンピック。陸上競技400メートル。インド代表のミルカはトップを走っていたのに、ゴール寸前で後ろを振り返ったため、4位になってしまった。なぜ、うしろを振り返ったのか。その謎が映画の進行とともに解明されていきます。
ミルカは、ミーク教徒です。頭の上で、長く伸びる髪を丸くまとめているのが、ちょんまげのようでユーモラスです。日本にもミーク教徒が2000人ほどいて、寺院も東京と神戸にあるとのこと。
インドからパキスタンが分離・独立したときの悲劇がかかわっています。
ミルカの子ども時代の少年も可愛いらしいのですが、大人のミルカ役はなんと本職は高名な映画監督だというのです。その鍛え抜かれた肉体美には圧倒されます。
人生を考えるうえで参考になる映画でもあり、大いに一見に値しますので、機会があればぜひご覧ください。