弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年2月18日

イスラム国、テロリストが国家を作る時

中東


著者  ロレッタ・ナポリオーニ 、 出版  文芸春秋
 
 今注目されているイスラム国とは何者なのか・・・。
 イスラム国は、その前は「タウヒードとジハード集団」の一部だった。タウヒードとは、神の唯一絶対性を表す言葉だ。神はすべてであり、神はあまねく存在するという意味。
 人差し指を突き出して、神は唯一無二であることを表す一神教の仕草は、今日ではイスラム国の公式の挨拶となっている。
 イスラム国では、女性は男性の親族の付き添いなしで外出してはならず、全身を覆わなければならず、公の場でズボンを着用してはいけない。
イスラム国の支配する地域の住民は、過激なサラフィー主義に改宗するか、でなければ処刑される。
 イスラム国を育んだのは、グローバリゼーションと最新のテクノロジーである。
イスラム国が過去の武装集団と決定的にちがうのは、その近代性と現実主義にある。
 イスラム国がムスリムに向けて発する政治的なイメージは、力強く、魅力的だ。それは、カリフ制に回帰しよう、これこそがイスラムの新しい黄金時代だというだという呼びかけである。
 イスラム国は、支配した地域の住民の承認を得ることにも熱心だ。道路を補修し、家を失った人のために食糧配給所を設置し、電力の供給も確保した。
 イスラム国の第一義的な目的は、スンニ派のムスリムにとって、イスラエルとなること。つまり、かつての自分たちの土地の権利を現代に取り戻すこと。
 イスラム国は、ソーシャルメディアを巧みに活用している。残虐行為をスマートな動画や画像に編集して、世界じゅうに流している。恐怖は宗教の説教よりは、はるかに強力な武器になる。イスラム国は、ケータイで簡単に見れる形式で残酷な処刑や拷問の写真や動画を投稿している。のぞき見趣味のはびこる現代のハンチャル社会では、きれいに切り取って差し出されたサディズムは格好の見せ場となる。
 イスラム国は、アル・バグダディとカリフ制国家にまつわる神話を織り上げた。
イスラム国は潤沢な収入源をもっている。シリア各地の油田や発電所をおさえている。また支配下にある地域の企業から税金を取りたて、武器・装備品をはじめとする商品の取引にも課税している。
 イスラム国が過去の武装組織にまさっているのは。軍事行動力、メディア操作、制圧地域での生活改善プログラム、そして何より国家建設である。
 アル・バグダディは、アメリカ軍に捕まり5年のあいだ服役していた。その服役中は非常におとなしく、目立たなかった。アル・バグダディは、バグダッド大学でイスラム神学の学位をとっている。
 アル・バグダディは、どんな新参者も歓迎する。他の組織は、スパイや密告者を恐れて、志願者を受け入れないことが多い。
 イスラム国は、どこからも支援をうけずに財産を築き自立を果たした。
 イスラム国は、軍隊や行政に階層構造をもち込んだ。そのおかげで、個々の部隊が犯罪者集団や烏合の衆に堕落する危険は少なくなっている。
 イスラム国の歩兵の平均給与は、月41ドルで、イラクの肉体労働者の給与に比べてはるかに低い。つまり、イスラム国の兵士の士気を高めているのは、報酬の高さではない。
 アメリカ軍は過去50年間、ずっと戦争してきた。そのアメリカ軍が敗北したということは、軍事的行動以外でしか物事は解決できないということを証明している。外国の軍事介入が中東の不安定化の解決にはならない。戦争以外の手段を模索するしかないのだ。
 アメリカの失敗に大いに学んでいるイスラム国です。アメリカのような軍事一辺倒で解決するはずがないということを認識させてくれる本でした。
(2015年2月刊。1350円+税)

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