弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年1月30日

日米〈核〉同盟

社会


著者   太田 昌克 、 出版  岩波新書

 核兵器と原子力発電所が、根っこで共通した問題のあることを明らかにした本です。
 そして、西山記者が暴いた「核密約」が今も生きていて、私たち日本人の生命、安全を脅かしていることも明らかにしています。
 2011年3月15日は、日米同盟の盟主である米国が驚愕し、菅政権と東京電力に、その当事者能力に見切りをつけた「運命の日」である。
 海兵隊の特殊専門部隊CBIRF(シーバーフ)は、1995年の地下鉄サリン事件を機にアメリカ軍内に設置された専門集団で、部隊は二つしかない。うち一つは常時、アメリカの国家機能の中枢である首都ワシントンでの有事に備えて即応体制をとっている。そんなアメリカ有数の資産であるCBIRF(隊員50人)がアメリカ本土から遠く離れた外国(日本)に派遣されたことの政治的意味は格別に重い。
 日本側の「当事者能力」喪失を疑ったアメリカは、「複合的人災」と呼べる福島の原発事故の初期対応に能動的に関わった。
 核超大国であるアメリカは、冷戦時代から今日に至るまで、「核の傘」という「核のパワー」に依拠した軍事的手段を日本に供与し続けると同時に、原子力という民生用の「核のパワー」を「平和利用」の名の下に被爆国ニッポンに担保し続けてきた。
 核搭載艦船の日本への通過・寄港を無条件で可能にする「核持ち込みに関する密約」が必要だった。1954年5月、アメリカの国防総省は、国務省に対して、日本に原爆を持ち込み貯蔵したい、在日米軍基地から核攻撃できるよう、日本政府から事前の許可をとってほしいと要求した。
 アメリカ軍は、1945年末から1955年初めに沖縄への配備を断行した。そして、1955年春に西ドイツ、57年にフィリピン、58年に韓国、台湾へと、順次、核の前線配備をすすめ、「核の脅し」を具現化していった。
 核兵器にきわめて敏感な反応を示す日本人に、いずれ核配備を受け入れさせるためにしたのが、「原子力の平和利用」による「核ならし」という、日本国内世論のマインドコントロールだった。
 「平和利用」と「軍事利用」とは、コインの裏表の関係をなすものである。アメリカのCMRT(被害管理対応チーム)は、核事故の特殊専門チームであり、ホワイトハウスは、3.11の原発事故から3日たった時点で、福島の現場に投入することを決めた。
 CMRTは、二つのチームに編成されており、一つは西部ネバダ州のネリス空軍基地に、もう一つは首都ワシントン郊外のアンドリュース空軍基地に常駐している。
 CMRTのメンバー33人が3月16日に横田基地に到着し、アメリカ軍機に乗り、福島の上空700メートルから放射線の空間線量を測定した。CMRTが海外における核危機の現場に投入されたのは、福島での原発事故が初めてだった。
 ところで、このCMRTから日本政府に届けられた初期の重要データを日本側が有効活用していない疑いが強い。
 村田良平・元外務事務次官(1987~89年)は、回想録のなかで、「核密約」の存在を認め、歴代自民党政権は国民に虚偽の答弁をしていたと書いた。
 外務省の事務方中枢は、長続きしそうで、「立派な」(口の軽くない)外相だけに「核密約」のことを教えていた。
 冷戦終結を受けて、アメリカ政府は核搭載した艦船を日本に寄港させなくなった。このアメリカ軍の戦略の変化を反映して、「日米核同盟」の象徴的存在だった核密約の政策的な重要性が低下した。
 日本は2013年の時点で、使用ずみ核燃料を再処理して抽出した45トンのプルトニウムを保有している。45トンのプルトニウムから製造できる核爆弾は5000発以上になる計算だ。
 いま、全世界にある核兵器は1万7000発ほど。うちアメリカが7400発(そのうち2700発は解体待ち)、ロシアが8000発(うち3500発が解体待ち)。アメリカに次ぐ原子力大国のフランスは57.5トンの民生用プルトニウムを保有する。ロシアは50トンのストックをもつ。イギリスは91トン、中国は20キロにみたない。ドイツは6トン。すなわち、日本の45トン、5000発分のプルトニウムは、とてつもない量なのである。
 日本を取り巻く核兵器と原発の危険性を改めて認識しました。広く読まれてほしい新書です。
(2014年8月刊。800円+税)

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