弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2015年1月14日

日本はなぜ原発を輸出するのか

社会


著者  鈴木 真奈美 、 出版  平凡社新書

 「世界一安全な原子力発電の技術を提供できる」
 これは安倍首相がサウジアラビアの大学で講演した(2013年5月)ときの言葉です。こんな真っ赤な嘘を日本に首相が海外で堂々と言い切るなんて、私は絶対に許せません。
 嘘つきはドロボーの始まりです。道徳教育を強引にすすめようとする安倍首相の二枚舌は酷すぎます。
福島の原発事故は依然として「収束」の目途はたっていない。4号炉の使用済み燃料棒の取り出しこそ完了したものの、1号炉も2号炉も、そして3号炉も、核燃料棒の所在も何もかも判明していない。原因の究明さえ終わっていないのに、安倍首相が外遊先で「安全」を安請けあいするのは見識を欠く。反省したはずの「安全神話」を輸出するようなものではないか・・・・。
 原子力のプラント輸出は、「国」が長期にわたって法的・財政的な「保証人」になることが求められる特殊な国際商取引である。「国」は、日本側の保証人として、そのプロジェクトが続くあいだ、融資をふくめ、さまざまな側面から支援するだけでなく、原子炉の製造ラインと技術・人材を確保するための政策を保持することになる。
 原子力プラントの受注契約を先行させ、そのうえで自国の今後の原子力施策と中長期計画を検討するというのは、原子力産業を維持するために、原子力発電を継続するという逆転をもたらすことになる。
 このように、原子力輸出は、他のエネルギー技術の輸出にはない、特殊なリスクを内包している。なぜなら、一度でも大量の放射能放出事故が発生したときには、その賠償は巨額かつ長期にわたることは自明のことだから。
 原子力産業を立ち上げるのは「国」であり、この産業は「国」が定めた施策の枠組みをこえて活動することは基本的にありえない。国の法的・財政的な補償を必要とする海外展開の場合は、なおさらである。
 かつて世界の原子炉や濃縮ウラン燃料の供給をソ連と二分し、自由主義陣営への供給では圧倒的な占有率を誇っていたアメリカは、いまや輸入する側になった。いまでは、日本はアメリカの原子力産業の再建を技術面・資金面で支援し、日米は共同で原子力輸出をすすめている。
 世界の原子力産業界は、ライバルであると同時に、その根底では一蓮托生なのである。
 「室蘭が止まれば、世界の原発建設が止まる」
 世界の原子力業界では、室蘭にある日本製鋼所の室蘭製作所が、つとに有名である。そこで大型原子力用部材において突出した鋳鍛(ちゅうたん)技術をもっているため、世界のシェアの8割を占めている。
 地球は、もともと放射性を出すあまたの元素の塊だった。これらの天然の放射性元素のほとんどは、長い時間を経てエネルギーを出し切り、安定元素となった。この安定元素に囲まれた環境の下で人類は誕生した。ところが、この50年ほどのあいだに、本来なら地球上には存在しなくなったはずの放射性元素を核爆発や原子力発電によって大量につくり出してしまった。
 人間の管理能力をはるかに超える人工の放射性元素(核のゴミ)を、これからも増やし続けるか否かが、今、私たち人類に問われている。
 安倍政権による無責任な「原発」輸出策の危険性を改めて強く認識させてくれる新書です。読みやすい本です。ぜひ、あなたも手にとって一読してください。
(2014年8月刊。800円+税)

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