弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年12月20日

鬼はもとより

江戸時代


著者  青山 文平 、 出版  徳間書店

 江戸時代の小さな藩の財政立て直しの話です。よく出来ています。アベノミクスの失敗は明らかですが、それは弱者切り捨てまっしぐらだからです。かつての「年越し派遣村」がビッグ・ニュースになったときのような優しさが今の日本にないのは不思議なほどです。
 アベノミクスは、原発・武器・カジノというのが目玉でもあります。とんでもないものばかりです。これで、子どもたちに道徳教育しようというのですから、狂っています。
藩札は、宝永4年(1707年)にいったん禁止された。その後、新井白石の改鋳があり、貨幣の量が激減し、世の中が金不足となって、享保15年(1730年)に再び許可された。
 正貨と藩札を交換する札場の項では、その数や配置のみならず、用員の取るべき態度まで示され、受付の御勤めに限っては、商家に委託するとされた。
 藩札の板行には、小判や秤量(ひょうりょう)銀などの正貨の裏付けが不可欠だ。
 一両の小判を備え金(そなえかね)にして、三両の藩札を刷る。1万2千両を備え金にして、3万両の藩札を刷る。それだけの正貨があれば、いつ、藩札を正貨へ変えてくれと言われても応じることができる。換金さえ約束されたら、紙の金でも立派に貨幣として通用する。
藩札板行を成功させるカギは、札元の選定や備え金の確保といった技ではない。藩札板行を進める者の覚悟だ。命を賭す腹がすわっていなければならない。
 藩札は専用の厚紙でつくり、偽札を防ぐために透かしを入れる。紙の厚い、薄い差を使って絵を描く。偽造防止の手立ては、透かしだけではない。複雑な文様のなかには、市井のものには字とは見分けられない梵字や神代文字がさまざまに組み込まれている。このありかを知らないと、同じ文様のようでもずい分と違ってくる。一枚一枚では分からなくても、多くを集めると、誰の目にも明らかなほどの違いが生じてくる。
 藩札の十割刷りを強行した藩は一揆を招いて、結局、幕府から改易処分を受けて、藩そのものが滅亡した。別の小藩では、強力な藩札によって、他国に負けない強力な特産物を育て、藩が一手に買い上げて領外に売る。その代金は正貨で受けとる。これで藩は丸もうけとなる。
 では、何を特産物とするか・・・。浦賀に、魚油と〆粕、大豆を送ってもうけるという。
 この商法を藩内に定着させるために取られた手法に驚かされます。小説とは言え、ぐいぐいと惹きつけられるのでした。私は、出張先の鹿児島の中央駅に着いて2時間あまり、駅ビルの喫茶店で読みふけったことでした。
(2014年5月刊。760円+税)

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