弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年12月 4日
浮浪児1945~
日本史(戦後)
著者 石井 光太 、 出版 新潮社
終戦直後、12万人以上の戦災孤児が生まれた日本。その中心、焼け跡の東京に生きたら子どもたちは、どこへ「消えた」のか。
これが、この本のオビのフレーズです。戦災孤児となった子どもたちのその後を追跡しています。
戦災孤児となり、生きていくのが辛くて、自殺してしまった子どもたちもたくさんいました。
女の子はやはり男の子以上に大変だったようです。それでも、たくましく生きのびた子どもがいたことを知り、いくらかの救いも感じました。
子どもたちにあたたかい救いの手を差しのべた人もいたようです。
1945年10月。上野駅では2日に1人の行き倒れを処理していた。11月になると、浮浪者の餓死体は、多い日には6人もいて、一日2.5人が平均だった。1ヵ月にして、餓死者が7~80人も出た。浮浪児のなかでは、か弱い子どもが真っ先に命を落としていた。
上野の地下道に大勢の浮浪児が集中した。働き先は二つ。上野のヤミ市と浅草の商店。
ヤミ米の担ぎ屋を一部で担う浮浪児もいた。
浮浪児たちは、靴みがきと並んで新聞売りに従事した。新聞を1部10銭で仕入れて、通行人に1部20銭で売る。1日に50部から100部売れたら食べていくことができた。
地下道暮らしでも、仕事をしている限りは三食を十分に食べていけた。
孤児院に収容されると十分に食べられず、施設の職員に殴られる。だから、浮浪児たちは孤児院に収容されることを嫌がり、警察に保護されても、脱走して路上に戻ろうとした。
浮浪児にはお金を貯めるという発想がなく、あまった分は地下道の友人や知人におごったりして使い果たしてしまうのが常だった。
浮浪児たちは傷痍軍人たちと仲良くしていた。
浮浪児は一日の仕事が終わると、ホンモノの傷痍軍人のところに行って食べ物をあげた。そのお礼に読み書きや英語を教えてくれた。戦争に駆り出されて傷害を負う前は普通の社会人だったから、頭の良い人もたくさんいた。だから、子どもたちに勉強を教えてやっていた。
戦後になって地方から上野にやってきたワルたちは、家出組が大半だった。「ノガミ」(上野のこと)へ行って「一旗あげよう」と上野へやって来た。
ヤクザは不良少年を利用して、ショバ屋、ブーバイ、ダフ屋を営んだ。ブーバイとは、上野発の乗車券を買い占めて、高値で売る商売のこと。
犯罪性が高く、人気があったのが集団スリ。スリの学校まであった。
1946年から、警察は上野の浄化作戦にとり組んだ。1回の狩り込みで、冬だと4千人、春でも2千人ほどの浮浪者が検挙された。警察は、浮浪者を、大人、子ども、病人と分け、行き先別にトラックの荷台に載せて連行した。
この本を読んで、もっとも感銘を受けたのは、次の指摘です。これだけでも、この本を読んで良かったと思いました。
戦災孤児は、空襲で両親が死ぬまでは普通の家庭で育っていた。親に愛され、兄妹と仲良く遊び、おじいちゃん、おばあちゃんに可愛いがられた。だから、人間としての根っこがしっかりしている。たとえ戦争のせいで何年か上野で浮浪生活をしたとしても、施設に住まわせて、ちゃんとした環境さえ与えれば、それなりにがんばって生きていける。
家庭の愛情でなくたっていい。友人や見知らぬ大人からでもいいから、子ども時代に多くの愛情をきちんと受けてきた記憶があるということが大切。そういう経験があるからこそ、浮浪児だった子どもたちは、学がないのに社長になって社員に愛情を注ぎながら引っぱることができていたし、収入も乏しいのに結婚して努力に努力をつみ重ねて、子どもをきちんと育てることができた。
ところが、現代の虐待を受けた子どもたちは、どこかで心が折れ、何もかも投げ出してしまっているので、最後までやり遂げることができない。
子どもは家族から愛され、周りの人に恵まれることによって初めてしっかりとした自我が生まれる。人を愛し、自分を制御し、生きるということに向かって進んでいくことができる。
このことが実証されている本として一読に価すると思いました。
(2014年10月刊。1500円+税)
イチョウについての本を読みながら上京したところ、日比谷公園の大銀杏は見事に黄変していました。黄金色というのか、山吹色というのでしょうか、壮観でした。
憲法改正を許さない取り組みをすすめていくための会議に参加したのですが、総選挙の投票率が低くなることをみんなで心配していました。小選挙区制というマジックもありますが、選挙で信任を受けたとして集団的自衛権を認めるための法改正は許せません。
国の根本のあり方が問われている選挙でもあります。投票所に足を運びましょうね。
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