弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年10月25日

海賊と商人の地中海

ヨーロッパ


著者  モーリー・グリーン 、 出版  NTT出版

 海賊というと、カリブ海の海賊をイメージしますが、この本では、地中海の海賊がテーマとなっています。そして、海賊というと、社会の落ちこぼれの、ならず者集団というイメージですが、実は地中海海賊の正体は、れっきとしたマルタ騎士団だったのです。
 ええーっ、キリスト教の信仰のあつい騎士団が海賊だったなんて・・・。信じられません。でも、騎士団には、イスラム教徒への聖なる戦い(十字軍)という口実があったのです。
 それにしても、本当に騎士団が海賊行為をしていたのでしょうか。その被害者は誰だったのでしょうか・・・。
被害者となったのは、ギリシア商人たち。彼らが、海賊行為の不当を主張して、賠償を求めて裁判に訴えた記録が残っているのです。
 この本は、その裁判所に残された文献を読み解いたものです。
 17世紀、東地中海では、商人を恐怖におののかせたのは、キリスト教徒の海賊だった。赤字に白の十字架が描かれたマルタ騎士団の旗がオスマン帝国の海域にひるがえると、イスラム教徒、ユダヤ教徒、そして、正教キリスト教徒からなるオスマン商人たちは、恐怖に震えあがった。この旗は、200年のあいだ、この海域を闊歩した。
 マルタ騎士団は、東地中海におけるカトリック勢力再興の一翼を担った。
 被害にあったギリシア商人たちは、マルタまで訴訟を起こすためにやってきた。海賊行為を働いたマルタ騎士団は、なんと自前の裁判所をもっていた。
 マルタ騎士団の海賊行為の背景にあったのは、地中海におけるキリスト教徒とイスラム教徒の永久戦争という理念だった。
 17世紀のイタリアで、メディチ家はリヴォルノを自由港とし、商品移動の自由ときわめて低率の関税を保証した。
 マルタ騎士団による私掠は公的性格をもっていた。公式の航海で得た利益は、すべて修道会の財政に組み込まれた。
 マルタ騎士団は、ガレー船を次第に増やしていった。一隻のガレー船は200人ほどの漕ぎ手が必要だった。マルタ騎士団の騎士は、300人から600人へと増加した。
 私的な私掠は、栄光のための十字架であったと同時に、利益のための十字架でもあった。30年間に出帆したマルタ騎士団のガレー船は、400隻をはるかに上回っていた。
 マルタの奴隷収容所には、1万人のイスラム教徒奴隷が辛酸をなめていた。
 マルタ騎士団が海賊として襲ったオスマン船の船長、船乗り、船主あるいは荷主の多くはキリスト教のギリシア人だった。マルタ騎士団は、法廷において、この矛盾をどう言い繕うかという問題に直面した。マルタ騎士団の法廷は、腐敗した組織だった。訴訟を取り仕切った判事たちも、奪略品の3%を受けとっていた。そもそも、マルタ島全体が私掠で成り立っていたのだ・・・。
 地中海の海賊、「十字軍」の汚い正体を見た思いがしました。
(2014年4月刊。3600円+税)

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