弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年8月19日

過労自殺(第二版)

社会


著者  川人 博 、 出版  岩波新書

 初版は1998年4月に出ています。今回は全面的に内容が改訂されています。
 過労自殺とは、仕事による過労・ストレスが原因となって自殺に至ることを意味する。過労自殺は、過労死の一種である。
 新しい産業として注目を集め、多くの若者が働いているIT関連業界で、若い技術者、とくにシステムエンジニア(SE)が過労の末に死亡するケースが増えている。
 SEは、実はスレイブ・エンジニア(奴隷技術者)なのではないか。労務管理が変化し、多くの若者に過度のプレッシャーを与え、精神疾患の増加と過労自殺の原因となっている。
 一年目から過度の成果をあげることを性急に求められる。このような目先の成果を追い求めようとする経営姿勢は、職場のゆとりを奪い、労働者の健康を損なうことによって、従業員の労働能力を減退させ、企業の社会的評価を低下させ、結局のところ経営自体の発展を阻害している。若者に対する労務対策は早急に改善されなければならない。
 私もそうだと思います。非正規労働者として使い捨てにし、死ぬまで働かせるなんて、とんでもない労働環境です。
 この是正のためには、労働組合も強くなければいけません。「連合」って、いったい何をやっているのでしょうか・・・。かつての総評と違って、残念なことに、まるで存在感がありません。
パワハラに似たものとして、部下からの執拗な嫌がらせ、脅迫にあって、ついに自死してしまった中間管理職の話が出てきます。そういうことも大いにありうると、弁護士である私も自らの体験をふまえて思います。何しろ、弁護士に対してすら、横柄な口のきき方しか出来ない人がいるのです。いえ、別に弁護士を上にもちあげろというのではありません。人間として対等であり、平等のパートナーであるのに、そう思うことのできない人が皆無ではないどころか、少なくないということを言いたいのです。
過労自殺者は年間2000人以上にのぼると思われる。20歳前後から60歳以上まで、広範に広がっている。若い世代の割合が多い。
 過労自殺者は、程度の差こそあれ、事前に体調不良を訴え、一般内科で受診していることが多い。残念なことに、多くの人がこの初診の段階でうつ病などの精神障害の診断を受けずに、精神科での適切な受診の機会を逸している。
 多くの企業は、労働条件や労務管理の問題をタナにあげ、自殺を労働者個人の責任としてとらえる傾向が強い。
 そして遺族に対して、「会社に迷惑をかけた」として高圧的な態度をとり、遺族は、「申し訳ない」とお詫びする立場に立たされる。自殺の基本的原因をつくった加害者側が、遺族=被害者側をしかりつけるという、まことに本末転倒な事態がおきている。さらに、企業を監督すべき立場にある労働行政が十分に機能していないことも多く、その結果、過労自殺が発生しても、企業側に真摯な総括がなされず、職場の問題点がそのまま放置されてしまうことも多い。
 カローシは国際語になったようですが、その一種としての過労自殺の実情と問題点、さらには対策と予防法について、この問題を長く専門としてきた弁護士が明快に解説している好著です。
 大学生のときから敬愛する著者(私の方が一学年だけ上です)から贈呈していただきました。ありがとうございます。今後とも一層のご活躍を祈念します。
(2014年7月刊。820円+税)

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