弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年8月 1日

私たちはこれから何をすべきなのか

司法


著者  金子 武嗣 、 出版  日本評論社

 著者は私と同世代、団塊の世代の大阪の弁護士です。
 明治以来の弁護士の歴史を振り返り、また、40年間の自分の弁護士生活で得たものを語っていて、大変よみやすい本になっています。
司法改革について、最近、何となく弁護士会の内部に全否定してしまうような風潮があります。著者は残念がっています(121頁)が、私もまったく同感です。
 司法制度改革は、当時の社会状況を抜きに語るわけにはいきません。ある意味では、ひどい弁護士叩きが進行していました。政府と財界は弁護士自治を骨抜きにしようとしていましたし、マスコミと市民は弁護士は市民と縁の薄い、独善的な存在だと厳しく批判していました。弁護士自治が解体させられたら、たまりません。どうやったら弁護士自治を守り抜けるか、市民のための司法の理想に一歩近づけるためにはどうしたらよいのか、必死の模索をしたのです。それを「後知恵」で、陰謀でもあったかのように批判する人がいて、司法制度についての議論が混迷させられました。
 私自身は、地方都市での弁護士生活を40年近く続けてきて、弁護士はまだまだ多くの市民と縁遠い存在だということを実感しています、かつての司法試験も難しすぎました。2万人の受験者で500人の合格者だなんて、少なすぎます。もっと早くから1000人、1500人の合格者にしておくべきだったのです。
そして、司法修習生を無給にして、奨学金を貸すなんて、国はせこすぎます。今度、1機100億円のオスプレイを17機導入するそうです。1700億円です。強襲揚陸艦とか、そんなものに使うお金はあっても、人材養成にはお金をケチる。国のあり方として、根本的に間違っていると思います。
この本を読んで初めて知ったこと、再認識させられたことがいくつもありました。
 弁護士自治を定めた弁護士法が成立したのは昭和24年(1949年)5月のこと、9月から施行された。この成立にあたっては、政府も裁判所も乗り気ではなかった。それを弁護士出身の国会議員の力で成立させた。弁護士が力を合わせて勝ちとったものと言える。
昭和11年に施行され旧弁護士法で、初めて女性弁護士が誕生した。
 このとき、弁護士試補は1年半の研修を義務づけられた。しかし、無給だった。そこで、政府から手当が弁護士会に支給された。弁護士会も予算措置をとって、弁護士試補一人に25~30円を支給した。
 司法修習生にアルバイトを禁止し、修習専念義務を課しておいて無給とするなんて、野蛮国のすることです。一刻も早く、司法修習生に対して、以前のように給費制を復活すべきだと思います。
 この本で、江戸時代の公事師と代言人について低く評価している点は納得できませんでした。まず、江戸時代にはたくさんの訴訟があっていたこと、それを公事師が支えていたこと。この点の積極評価がありません。
さらに、明治前半には裁判がとても多かったこと、江藤新平は、その点で積極的役割を果たしたこと。「多すぎる」裁判の抑制策として高額の印紙税制度が導入されたこと、そして、代言人の多くは自由民権運動の闘士として活動していたこと。これらの記述が抜けています。この点については、著者に補正してほしいと思いました。
 それはともかくとして、とりわけ多くの若手弁護士に読んでほしい、弁護士と弁護士会のあり方を論じた本です。
(2014年7月刊。1800円+税)

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