弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年7月30日
強欲の帝国
アメリカ
著者 チャールズ・ファーガソン 、 出版 早川書房
アメリカやヨーロッパの大手銀行は、金融危機を招いた行動に加えて、エンロンをはじめとする大企業の不正の幇助、麻薬カルテルやイラン軍のための資金洗浄(マネー・ロンダリング)、脱税幇助、腐敗した独裁者の資産の隠匿、談合による価格決定、さまざまな形での金融詐欺を行っていたことが暴き出されている。アメリカの金融部門が、過去30年間で、ならず者産業になり下がった証拠は、今では明白だ。
世界経済を危険にさらす重大な不正を行ったら刑務所に行くこと、そして不正に得た富は没収されることになれば不正は小さくなるだろうが、そのようにはならなかった。
アメリカのホームレスは人口は明らかに急増している。2011年には、アメリカ全土で200万軒以上の住宅が差押えされた。フードスタンプの利用者数は1800万人増加した。70%の増加率だ。
今やアメリカの上意中流階級に確実に入るためには、エリート大学の学士号はもちろん、修士号や博士号も必要となる。しかし、こうしたエリート大学に行ける学生の圧倒的多数は、アメリカの最富裕層の家庭の子どもだ。高等教育機関の学費は大幅に上昇しており、高等教育を受ける機会は著しく不平等になっている。
アメリカの二大政党は、どちらも、現実に存在する経済・社会・教育問題を無視したり、ごまかしたり、利用したりしている。
アメリカの富と企業と政治を支配している上位1%の人々の経済利益は、過去30年のあいだに、他のアメリカ人の経済的利益から完全に分離してしまった。
アメリカの金融サービス産業は、ニュー・エリートたちの非道徳性や破壊性、強欲さがこれほどむき出しにされてきた産業はほかにない。
1980年代のS&L事件では、アメリカの金融部門の数千人の幹部が刑事訴追され、数百人が、刑務所に送られた。
200年代のサブプライム融資の多くは、持ち家率の向上とは、まったく関係のないものだった。ウォール街や貸付機関は、不正によってポンジ・スキームを生み出し、あおり、利用していた。何百万人ものアメリカは、単にだまされただけだった。家を売ろうとしたとき、初めて気がついた。住宅の価値が3分の1も下がっているため、家を売ることが出来ず、長年かけて貯めたおカネを失ってしまったことに気がついた。
サブプライム・ローン貸付業は、バブルのあいだに犯罪の蔓延する産業になっていた。
不法移民は、警察に行くことを恐れていたので、とくにカモにされやすかった。
バブル期には、ウォール街の多くの幹部が自分のまわりに現実から遊離した小世界を築いていた。一般社員の立入を禁止する空間、リムジン・カー、専用エレベーター、ジェット機、ヘリコプター、高級レストランで過ごした。取締役会は、すべて言いなりだった。
ニューヨークの投資銀行家たちは、ナイトクラブやストリップ・クラブで年間10億ドルのお金を使い、会社に対して接待費として会社に請求している。
それでも彼らについて刑事訴追が行われなかったことから、非倫理的で犯罪的な行動を文化的に容認する姿勢が金融部門の奥深くに埋め込まれた。第二に、個人は刑事罰を受けずにすむという感覚が生まれた。犯罪行為をもくろむ銀行家が刑事訴追という脅威によって抑止されることが、もはやなくなった。
大手の金融機関がやってきたこと、やっていることは法の下で加えられるべきだったのです。これは、ちょうど、3.11のあと東京電力の会長・社長以下、誰も刑事責任を問われていないことと同じです。無責任集団が出来あがっています。それでも、それを容認したらまずいです。銀行と証券会社がのさばる社会は、やっぱり異常なのですよね。彼らは、何も富を生産しているわけではないのですから・・・。
大学教授たちは、民事と刑事の双方の金融詐欺訴訟において、大金をもらったうえで、被告らのために証言した。そしてこのとき、1時間の議会証言だけで25万ドルももらう。
大学教授に大金を支払って特定の政策を擁護させるという現状は、経済・法学の分野だけでなく、政治学や外交政策の分野まで広がりはじめている。
学者の腐敗は、今まではきわめて深く根を張っている。学問の独立性が金融産業をはじめとする有力産業によって、徐々に破壊されている。
政治家のウソに対するメディアの監視が弱まっている。この点は、日本でも残念ながら同じですね。最近のマスコミ、とりわけNHKのひどさといったら、目もあてられません・・・。
アメリカの刑務所には、常時200万人もの受刑者がいる。1000万人以上のアメリカ人が重罪の前科をもち、交通事故以外の犯罪で服役したことがある。数百万人が何年間も失業したままである。
アメリカン・ドリームは死にかけている。アメリカの子どもの人生展望は、親の富にますます左右される。
今のアメリカには、三つの教育制度が併存している。その一つは、上位5%の富裕層を対象とするエリート主義で、きわめて質の高い、法外な費用のかかる私立学校制度。二つ目は、しっかりした公立校の学区に住み、子どもを大学にやるゆとりがある中流階級の専門職のためのかなり良質な制度。三つ目は、残りみんなのための、本当にひどい制度である。
アメリカ、とりわけ金融産業のおぞましい実情を厳しく糾弾した本です。日本も一刻も早く他山の石とすべきです。
(2014年4月刊。2700円+税)