弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年7月 7日

ゾウと旅した戦争の冬

ドイツ


著者  マイケル・モーパーゴ 、 出版  徳間書店

 ドレスデンに住んでいた少女がゾウとともに苛酷な戦火の日々を生き抜いたという話です。
 わずか250頁という薄い児童文学書なのですが、出張の新幹線の車中で夢中になっているうちに途中で降りる駅を乗り過ごさないように注意したほどでした。
 ドイツの敗色が濃くなると、ドイツの都市はどこもかしこも英米連合軍から激しい空襲にあうようになった。ところが、ドレスデンの町だけは、不思議なことに、まだ空襲にあっていない。
 ドレスデンにある動物園で飼われていた動物、とりわけ猛獣たちは、空襲で逃げ出す前に射殺する方針がうち出された。そこで、ゾウの飼育係である主人公の母親は、親を亡くした4歳の仔ゾウを園長の許可を得て、自宅で飼うことにした。
 そして、ついにドレスデンの大空襲が始まった。一家は、ゾウとともに都市を脱出し、森の中を歩いて叔父さんのいる田舎を目ざす。その叔父さんは、ヒトラーを信奉し、主人公の両親とはケンカ別れしていた。しかし、この際、そんなことなんかには、かまっておれない。ひたすら、ゾウとともに森の中を、夜のあいだだけ歩いていく。
 ゾウと人間のあたたかい交流を描くシーンがいいですよ。声を出してゆっくり味わいたくなる描写が続きます。
 ゾウって、本当に賢いのですね。人間の微妙に揺れ動く気持ちを察知して、しっかり受けとめてくれるのです。そして、人間は、そんなゾウの澄んだ目に励まされ、生きて歩み続けていきます。
途中で、ドイツ語を話せるカナダ人の兵士と一緒になります。空襲してきた飛行機に乗って唯一助かった兵士です。そのカナダ兵を助けたことによって、主人公一家は助けられもします。
 最後まで、次の展開が待ち遠しく、どきどきしながら読みふけりました。幸い、降りる駅を乗り過ごすことはありませんでした。やれやれ・・・。
ちょっと疲れたな。なんか、心の休まる手頃な話はないかな・・・。そういう気分の人には、絶対におすすめの本です
(2014年12月刊。1500円+税)

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