弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年6月25日
法廷で裁かれる日本の戦争責任
日本史(戦前)
著者 瑞慶山 茂 、 出版 高文研
太平洋戦争は正しかったなどとNHKの経営委員(百田茂樹)が暴言を吐くのを社会が許容しているようで、本当に残念です。日本国憲法の前文には、政府の行為によって、戦争の惨禍を再び、くり返してはならないと明記しています。
この本は、強制連行、「従軍慰安婦」、空襲、原爆、沖縄戦・・・など、戦後日本で裁判所によって明らかになった事実が紹介されています。そして、担当した弁護士がその判決について解説しています。
本当に、アジアへの侵略戦争を始め、無数の人々を苦しめた日本軍とそれを支えた日本の政財界の責任は重大です。そのことに目をつぶっていてアジアで日本はやってけるはずがありません。加害者は忘れても、被害者は末代まで忘れるはずがないのです。
2段組みで600頁もの大作です。読んで気の重くなる本ではありますが、「自虐史観」などという前に知るべき歴史的現実だと思います。
戦後世代である私たちの責任は、国家に対し国家責任を履行させるための個人責任であり、個人として直接的に対外的対内的に賠償責任を負うわけではない。いわば間接責任の一種である。そして、ここでの戦争責任は、法的賠償責任ではなく、政治的責任と道義的責任である。だからこそ、戦後世代は国のあり方について積極的に考え、参加し、発言すべきなのである。私も、この考えにまったく同感です。
山口地裁下関支部の判決(1998年)は、「『慰安婦』としての性的強制は重大な人権侵害であり、人類にとって許すべからざる犯罪である。・・・・戦後、これを放置してきた国には、この被害回復義をつくさなかった違法があり、損害賠償をすべき責任がある」とした。
東京高裁の判決も、「業者を監視し、慰安所の実質的管理をしていたのは軍であったから、軍は業者の使用者としての管理を怠った責任がある」とした。
このように、「従軍慰安婦」の問題は、単に「強制連行」されたかどうかだけではありません。
河野談話について、アメリカ政府がその見直しを止めるように安倍政権に忠告しているのは当然のことです。これは不当な内政干渉というべきものではないでしょう。なぜなら、日韓政府はもっと仲良くしてくださいと言っているわけですので・・・。
日本軍のトップにいた岡村寧次・北支那派遣軍総司令官は、「現在の各兵団は、ほとんどみな慰安婦団を随行し、兵站の一部となっている有様である。第六師団のごときは、慰安婦団を同行しながら、強姦罪は跡を絶たない有様である」と述べた。
間(はざま)組は、中国(主として河北省)で拉致した中国人1500人を1949年4月に日本へ強制連行し、福島、長野、群馬などの発電所で苛酷な労働を強制した。この強制労働の16ヶ月間のうちに53人もの死亡者が出ている(死亡率8.7%)。このほか、負傷率も43%と異常に高い。
長野地裁の辻次郎裁判長は、判決言渡のとき、「私的見解」と断りながら、次のように述べた。
「提訴から8年かかったことをお詫びします。また、和解が成立しなかったことを残念に思い、お詫びします。私は団塊の世代で、全共闘世代に属するが、率直に言って私たちの上の世代に人たちは、ずいぶん酷いことをしたという感想を持ちます。
裁判官をしていると、訴状を見ただけで、この事案は救済したいと思う事案があります。この事案も、そういう事案です。一人の人間としては、この事件は救済しなければならない事案だと思います。心情的には勝たせたいと思っています。でも、結論として勝たせることができない場合もあります。このことには個人的葛藤があり、釈然としないときがあるのです」
ここまで言うのなら、もう一歩踏み込んで原告勝訴の判決を書けばいいのに・・・と思ったことでした。
戦前、中国から強制連行されてきた中国人は4万人近くで、そのうち死亡者は7千人近く(17.5%の死亡率)、しかも1~2年のあいだに死亡している。ところが、国は、終戦直前に三井や三菱に対して6千万円近くの国家補償をした。これは、三井鉱山や三菱鉱業が、1日あたり5円の賃金を支払ったとして国に対して損失額を計上したことを根拠とする。しかし、現実には、中国人に賃金を支払ってはいなかった。それなのに、巨額の賠償金を国からもらっていたのである。ひどいものです。このような国の大企業優遇は今も変わりませんよね。
貴重な文献であり、大いに活用してほしいものです。
(2014年3月刊。6000円+税)
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