弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年6月18日

約束の海

社会


著者  山崎 豊子 、 出版  新潮社

 海上自衛隊、そして潜水艦の乗員が主人公の話です。
 東京湾内で潜水艦が釣り船と衝突し、多くの死者を出してしまうのです。さあ、どうなるでしょうか・・・。
潜水艦乗りの仕事は、6時間毎の三交代制。深い海の中で、長いときには1ヵ月以上も潜ったまま作戦行動に従事するには、タフな神経の持ち主でなければつとまらない。身体面はもちろん、心理適性検査をくぐり抜けた者だけが選択される。
 潜水艦の乗員は、水雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科のいずれかに属している。そして潜水艦の運航とは関わりのない補給科の庶務員や経理員もふくめて全員が三つの哨戒直(ちょく)グループのどれかに属し、幹部のつとめる哨戒長のもと、任務につく。潜水艦の食事は6時間の哨戒直のローテーションにあわせて、1日4回で回ってくる。朝の6時、夜の6時は重めの食事、正午と零時は軽めのメニューが基本だ。アルコール禁止の船内では、食べることだけが楽しみだ。
 「ようそろ」という掛け声を感じにすると、宜候。「テー」は撃て、のこと。
潜水艦では、真水は海水を蒸留してつくる。その熱源である電池の減りを少しでも防ぐため、シャワーの回数は3日に一度あれば良しとしなければならない生活が続く。
 乗員はスニーカーで、リノリウム張りの床を音もなく歩く。潜水艦は、いわば海の忍者だ。だから、自ら音を発するのは厳禁。
静かに深く潜航して、不審な音を数十キロ以上離れたところから拾い、そこに忍び寄って音源を確認する。この警戒監視が、平時における潜水艦の最大の任務である。
 海上自衛隊は16隻の潜水艦を有しているが、その三分の一は修理に、また三分の一は、基本トレーニングにあたっており、出動するのは、残る三分の一でしかない。これでは、足りなさすぎる。
 長く潜水艦に乗っていた乗員には、ディーゼル・スメルがする。ディーゼル・オイルと艦内の生活臭が混ざった臭いだ。
潜水艦乗員の給与は高い。航海手当のほか、俸給の4割もの潜水艦手当という、いわば危険手当が上乗せされる。だから、手取りは月26万円ほど。
 潜水艦乗りの身辺調査は厳しい。機密保持にシビアなだけ、徹底的に調べられる。本人、親兄弟はもとより、親密に交際している友人にも調査が及ぶ。外国人と抜き差しならぬ関係にある場合には潜水艦乗りから、外される。
 自衛隊の訓練は、基本的には人を殺しことを目的としている。潜水艦乗りは、不測の事態に備え、全員、遺書が要求される。
山崎豊子が亡くなったことにより「約束の海」は第一部だけで終了してしまったのは残念です。第二部、第三部と続く計画だったようです。丹念な取材による貴重な本だと思います。
(2014年2月刊。1700円+税)

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