弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年6月 3日
小説で読む憲法改正
司法
著者 木山 泰嗣 、 出版 法学書院
主人公は17歳の男子、高校2年生です。楽しく読める。気軽に読める。主人公に感情移入して読める。そんな物語を通じて、憲法改正について、最低限の知識が身につく。そんな本です。
高校生に憲法改正問題を考えてもらうというのは、とても大切なことです。だって、自民党の改憲草案にある「国防軍」が現実のものとなったとき、真っ先にそのターゲットになるからです。伊藤真弁護士も、同じように高校生を主人公とした憲法読本(小説)を書いています。
豊富な若者コトバを駆使しているので、取材が大変だったでしょうと声をかけたところ、「そうなんですよ」という答えが返ってきました。といっても、憲法講義などで、若い受講生と接する機会はふんだんにあるのでしょうが・・・。
本書の著者は、たくさんの本を書いていますが、私も、そのいくつかは読んでいます。いつも、感嘆したり、共感して読んでいます。まだ40歳の著者ですから、今後の活躍がますます楽しみです。
主要な舞台は高校の図書室です。勉強好きではなかった彼が、ほのかな恋心を募らせる彼女と話すために、憲法について一生けん命に勉強するのです。その努力のいじらしさに気がとられ、憲法の前文や条文が丸ごと紹介されても、ちっとも苦になりません。
戦後まもなく、日本政府はポツダム宣言を受諾して戦争を終結させたことを忘れたかのように、憲法改正の4原則をつくった。その第一が、天皇主権の確認。これでは、占領軍が認められるはずもありません。そこで、マッカーサー三原則が示された。①天皇が最上位であること、②戦争の放棄、③封建制度の廃止。
GHQは10日足らずで憲法改正案をつくり、2月13日に日本政府に手渡した。そしてそれを受けて日本側で改正案をつくり、帝国議会に提出し、審議された。
日本国憲法は、占領軍による押し付け憲法だ。そんな憲法は国際法のルールを無視するものだから無効だ。
つい先日、NHKの経営委員になった長谷川美千子氏が同じことを鹿児島で話したようです。でも、70年間近くも変わらなかったということは、それだけ国民に定着していることの証(あかし)ではありませんか。
憲法の究極の目的は人権保障にある。だから、日本国憲法13条が一番重要だ。
知る権利、プライバシー権、報道の自由、取材の自由、自己決定権。そして、環境権。これらの権利は、基本的に憲法で保障された人権だと解されている。
自衛隊は、あくまで軍隊ではない。軍には自治が認められるが、自衛隊は自衛隊法にもとづき、必要最小限度の実力行使が認められるにすぎない。
日本の自衛隊は、専守防衛。つまり、攻撃があって、急迫不正の侵害があって、初めて出動できる。そして、その場合ですら、「必要最小限度」の実力行使しか出来ない。
日本の防衛費は、世界有数のレベルに達しているが、その多くは人件費に投入されている。アメリカが55兆円、中国は10兆円で、日本は6兆円しかない。
軍人は、北朝鮮は、110万人いて、ロシアは96万人、韓国は64万人いる。
直接民主制は、ドイツのように危険性もある。直接民主制は、拍手と喝さいで、チャップリン映画のように人々が熱狂し、独裁政権が誕生するリスクもある。
ぜひとも、本物の高校生に読んでほしいと思ったことでした。
(2014年3月刊。1500円+税)
有楽町の映画館で南アフリカのマンデラ元大統領を主人公とする映画をみました。大きな映画館に、観客はわずか20人ほどでした。平日の夜だったからでしょうか。それとも、マンデラは、もう忘れ去られた存在だということなのでしょうか。
黒人を人間として扱わない、下等人種と見てきた白人支配に対して、当初は非暴力で、そして、ついには暴力で対抗したマンデラは、結局、逮捕さされて、27年間もの獄中生活を余儀なくされたのでした。27年間って、長いですよね。
弁護士として活動していたマンデラは、裁判でも黒人差別を許さないという成果も上げていたようです。
そして、初めの奥さんには逃げられてしまいます。活動だけでなく、浮気していたのがバレたのでした。マンデラを美化しすぎないようにという注文が本人からついた映画なのです。ですから、妻、ウィニーとの葛藤も描かれています。
ウィニーは、迫害されて、過激になり、武力に走ります。裏切り者とみるとリンチにかけてしまうのです。
暴力が横行するなか、マンデラは、出獄して、テレビで訴えかけるのです。
「平和はいらない、報復を」と叫ぶのは間違っている。平和しかないというのです。
暴力の連鎖を絶ち切ろうと呼びかけるマンデラの崇高な叫びに心が震えました。涙より怒り、そして勇気を与えてくれる映画です。
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