弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年5月28日

虚像の政商(上・下)

社会


著者  高杉 良 、 出版  新潮文庫

 いつものことながら読ませます。この著者の筆力には、進むたびに驚嘆するばかりです。ぐいぐいと修羅場に引きずり込まれ、ついつい憤慨してしまったりするのです。
 今回の舞台は、政商です。いつの世にも、政治をビジネスチャンスとしか見えない守銭奴のような人間がいます。でも、まあ、それが軍需産業でないだけ、まだ平和な社会なのかもしれません。といっても、安倍首相は、武器輸出三原則を緩和してしまいましたから、おいしい軍需産業が大型公共事業にとって代わるのかもしれません。いやですね、というより怖いことです・・・。
 解説文を紹介します。
 ある銀行のトップが、こう言った。
 「池井戸潤も許せないが、高杉良はもっと許せない」
 高杉良は銀行にとってのタブーに挑戦している。池井戸は銀行を取りまく「闇」にはアタックしていない。闇に踏み込むには、作者にも危険を恐れない覚悟がいる。高杉良は、見ていてハラハラするほど、それを当然のものとして小説を書いてきた。
 百田尚樹は、出光佐三を偶像視しているのに、高杉良は、労働組合のない、社員にとって息苦しい会社をつくった男として出光佐三を描いている。
 この小説のモデルは、オリックス会長の宮内義彦。高杉良の『週刊新潮』の連載が終わったとき、宮内義彦は、「ホッとした」ともらした・・・。
 宮内義彦は、まさしく政商の典型です。規制緩和のかけ声に乗って、自らビジネスチャンスをつくり出して、大もうけしていったのでした。本当に許せません。まさに、宮内義彦は「利権を食うひと」でした。
 公職につく者が、その地位により誰より早く得られる情報を活用して事業を推進すれば、それがどんなに崇高な精神で行われたとしても、うさん臭いものに墜落してしまう。ましてや、崇高な精神なんて、全くなかったとしたら・・・。
 「改革」とは名ばかり、大きな虚業を生み出して、日本経済をむしばんでいった・・・。
 宮内義彦が組んでいた竹中平蔵については、次のように断罪されています。まったく同感です。
 「デフレ不況のさなかに無用なまでに厳しい資産査定を断行し、日本経済の屋台骨を支える多くの中小企業の息の根を止めた男だ。自らの失敗を恥じるどころか、円安による輸出企業の好調で、マクロ経済が底を打ったことを、銀行の不良債権処理による功績とすり替えた、稀代の詐欺師と評する向きもある」
 こんなロマンのない男たちを書きながら、その部下を主人公としてロマンを感じさせつつ、一気に展開し、さらにリース業界の専門用語まで駆使するのは、さすが、さすがと言うほかありません。
(2014年4月刊。750円+税)

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