弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年5月25日

立身いたしたく候

日本史(江戸)


著者  梶 よう子 、 出版  講談社

 江戸時代も終わりのころ、武士の世界も大変でした。
 上司によるいじめ(パワハラ)、うつ(ひきこもり)、猛烈な就活競争など、まるで現代日本と似たような状況もありました。
 そして、商家の五男が武家(御家人です)に養子に入ったのです。
 江戸時代というと、士農工商で厳しい身分序列があり、町民はひどく差別されていたというイメージがあります。でも、本当のところは、農民や商売人が武士になる可能性は大いにあったようです。もちろん、お金の力です。
 幕末期の新選組の隊士たちにも農民出身者がたくさんいます。彼らは手柄を立てて武士階級に入り込むつもりだったのです。そのため剣道修行に励んでいました。
 この本の主人公は、商家の五男では将来展望が暗いので、御家人への養子になることで立身出世に賭けてみたのです。
 旗本は、上様に会えるお目見(おめみえ)以上で、御家人(ごけにん)はたいていがお目見以下。小普請(こぶしん)では、お目見以上は小普請支配、お目見以下は小普請組と呼ばれる。
そもそも小普請は、お役を退いた老年のものや家督を継いだばかりの者、若年の者、あるいはしくじりを犯して役を解かれた者、長患(ながわずらい)のものなど、禄高(ろくだか)3千席未満の旗本、御家人が所属する無役無勤の集団だ。
 家督を継いだばかりの主人公は当然、小普請入り。小普請は、勤めがない代わりに、家禄によって定められた小普請金と呼ばれるものを納める。これを幕府施設の修理・修繕につかう。小普請金の徴収やらを管理・監督しているのが小普請支配である。その下に、組頭がいる。支配と組頭には、逢対(あいたい)という大切な役割があった。
 江戸時代の「就活」(シューカツ)は、現代と同じです。いろんな伝手(つて)を頼って、ともかくあたって砕けろ式で飛び込み、訪問を続けていきます。
 さらっと読める、ユーモアたっぷりの時代小説でした。
(2014年2月刊。1600円+税)

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