弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年4月 1日

とらわれた二人

アメリカ


著者  ジェニファー・トンプソン、ロナルド・コットンほか 、 出版  岩波書店

 レイプ犯として11年も刑務所に入っていた黒人がDNA鑑定と、それにもとづく真犯人の自白によって無罪となった話です。そして、もう一方でレイプ被害にあった白人女性の心の痛み、しかも、間違って無実の犯人と名指ししたことによる罪の呵責(かしゃく)をどう考えるのかという重いテーマもあります。実は、本書はこの二つの視点からスタートします。
 そして、この本は、その両者を結びつけ、冤罪の被害者とレイプの被害者とがついに手をとりあって和解したという感動的な実話なのです。
 それにしても、目撃証言というのは、本当にあてにならないもの、信用できないものなんですね・・・。
私は単なるレイプ事件の被害者ではなく、記憶力が最低のレイプ被害者で、そのため、ある人が11年間も無駄にしてしまった。どうして、私は、そんな愚かなことをしてしまったのだろう・・・。
 ロナルド・コットンが犯人だという思いに捕らわれ、過剰なほどの自信をもってしまった。あの夜の記憶は鮮明で、理屈というよりも直感的で、意のままに再生できるビデオテープのようなものではなかったのか。
ロナルド・コットンの顔を面通しで見て、さらに法廷で見ることは、つまり、次第に彼の顔が私を襲った犯人の元々の像にとって代わっていくことを意味した。法律の専門書で、それは「無意識の転移」と呼ばれる。要するに、私の記憶が歪められたということだ。私は自分を襲った人を30分も見たし、彼の顔は私と数インチしか離れていなかった。それなのに、私は完璧に間違ってしまった。
 無実の被告人を弁護した弁護士たちは、まったくの無報酬でがんばっていたのでした。これまた、すごいことです。そして、無罪になったときに言ったのは・・・。
 「我々の仕事に対しては、一切、報酬はいらない。ロン、ただ、君の自由を最大限活用してくれたらいい」
 「生産的な生き方をしてほしい。それが、我々の求める最良の報酬だ」
 すごいですね。アメリカにも、私たちと同じようにがんばる弁護士はいるのですね。うれしくなります。
刑務所で生きのびるためには、鍛えて強い身体を維持しなければならない。走ったり、腹筋運動や腕立て伏せしたり、あらゆる方法で身体を動かした。
 刑務所に収監された直後は、とても重要だ。戦いの勝敗が、そこになじめるかどうかを左右する。刑務所では、弱虫に見られないようにするのが大切だ。そうすれば利用されずにすむ。たとえ負けたとしても、やり返すことで、一目置かれるようになる。
 刑務所では、多くの者が身を守るために、自分を殺人を犯して服役しているという。そうすれば、たちの悪いやつに見えると思っているのだろう。ここでは、誰を信じていいのか、決して分からない。
 アメリカでは、DNA鑑定によって、300人以上の有罪判決がくつがえっているとのことです。これは、すばらしいことであると同時に、実に恐ろしいことです。そして、それは、被告人とされた無実の人だけでなく、被害者にも二重の苦しみを与えることになるわけです。よくぞ、本にしてくれたと思います。感謝します。
(2013年12月刊。2800円+税)

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