弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年2月26日
実践・訴訟戦術
司法
著者 東京弁護士会春秋会 、 出版 民事法研究会
これはタイトルどおりの本です。とても実践的な、訴訟をすすめていくうえで役に立つノウハウが満載です。初心者や若手だけではなく、ベテラン弁護士が読んでも、そうか、そういう手があったのかと、おもわず膝を叩いて反省されるような本なのです。この本を読まないと損しますよ。
とても実践的な本であるというのは、読みやすく、分かりやすく、具体的であることにもよります。若手・中堅・ベテランが新人弁護士の疑問にこたえていく座談会方式なので、しかも、答える三者が微妙に違う答えをしたりするところが、また面白いのです。
座談会方式の本は、ともすれば散漫に流れやすいのですが、そこはうまく編集されていて、ぴしっと締められています。
訴訟の勝敗は間接事実で決まる。間接事実を主張するなかで、どちらが人間性、人情的なものの裏付けがあるか、という点も重要である。司法は、単なる機械的な判断ではなく、裁判官という人間が裁くものであり、最後によりどころとなるものは人間性なのである。
訴訟は勝訴するにこしたことはないが、依頼者が訴訟を通じて紛争についてどのように納得して終了したか、ということも大切。
この本にも内容証明を出すことが第一歩と書かれています。しかし、私はもう20年以上も内容証明を出したことはありません。すべて配達証明です。形式の制約がありませんし、証拠も同封できるからです。
内容証明は電子郵便でも出せますが、形式があまりに窮屈すぎます。なぜ、配達証明のことが書かれていないのか、不思議です。
弁護士からの内容証明は、FAXで回答する。これは、私も同意見です。もちろん。郵送することもありますが、準備書面だってFAXでやりとりしているのですから、FAXで回答するのに何のためらいもありません。
内容証明を出すとき、依頼者の主張に裏付けをとるべきか議論されています。私は、その主張が、話を聞いていて、もっともだと思えたら、あえて裏付けをとるまでもなく、相手方へ書面を送っています。
説明しているのに、法外な金額に固執する依頼者については、そもそも受任できない。ともかく自分の主張に固執しすぎている人には要注意。さっさと辞任したほうが、あとでストレスを抱え込まないための秘訣ですね。税法上の理由から、連帯保証債務で和解するときには、残債免除ではなく、「連帯保証契約を合意解除する」という条項を入れるべき。うむむ、これは知りませんでした・・・。
家事調停の申立書には、あとで話し合いをまとめるためにも、あまり感情的なことは書かないほうがよい。
紛争の当事者はカッカしていることが多く、相手を言葉でやっつけてほしいと注文をつけてくることが多いのですが、それに乗らないように注意します。
訴状は、費用をもらって1ヵ月内、遅くとも3ヵ月内には裁判所に提出する。
そうですよね。簡単な訴状なら1ヵ月以内に出すべきです。
訴状には、淡々と事実を語ることが大切。そして、要件事実を落とさない。
スーツ、ネクタイは必須。靴も重視される。ただし、一番大切なのは清潔感だ。
法廷で発言するときには、立って行う。そのほうが裁判官や相手方が聞こえやすい。
感情的にならない。代理人が本人化しないように注意しておく。
最終準備書面は非常に意味がある。尋問にどんな意味があったのかを説明する。そして、裁判官が判決を書きやすくしてあげる。
不利な証拠は出さない。弁護士は、嘘は言わないけれど、本当のことをすべて言うわけでもない。証拠の提出にあたって、立証責任を意識することは、まずない。
弁護士はベストを尽くすことが大切。裁判官がどんな心証をもっているかは、基本的に分からないのだから、立証責任の有無にとらわれず、主張・立証を尽くすべき。
尋問は事前準備がすべて。依頼者に「陳述書を読んでおいて」ではダメ。一緒に読み合わせをする。尋問テストは何回でもする。当日も、午前中に尋問テストをする。
これは、いかがなものでしょうか。私は、前日は記録一切を読まないようにお願いしています。ここで何を言うべきか、何と書いてあったか思い出そうとする一瞬の間があくことを恐れるからです。
尋問するときには、あとで調書になったとき、読みやすくなるように意識しておく。なるべく上品に、丁寧に質問する。子どもに言って聞かせるような感じを心がける。
反対尋問では総花的質問であってはならない。深追い、ダメ押しはしない。
弁護士にとって、法廷は演じる場所、パフォーマンスの場である。基本的に淡々と質問していてもクライマックスでは声を大きくする。
最後のあたりに、辞任と解任の実践上の違いが論じられていますが、もらっていた着手金を返すのか、全額なのか、半額なのか。悩ましいところです。
早く完全に縁を切りたいときには、もらった実費もふくめて全額返却することもある。
本当に、そのとおりです。ぜひ、あなたも手にとって読んでみてください。
(2014年2月刊。2300円+税)