弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2014年2月14日
新選組遠景
日本史(江戸)
著者 野口 武彦 、 出版 集英社
新選組の実態と歴史的位置づけを明らかにした本として、とても興味深く読みました。
文久3年(1863年)2月、江戸から総勢240人余の浪士の一団が京都に向かった。
服装はまちまちで、野郎頭や坊主もいる。一番目だったのは、「水戸天狗連」と称する水戸脱藩浪士立ちの20人のグループ。首領格は芹沢鴨(せりざわかも)。その黒幕は清河八郎。近藤勇たち多摩出身者は、その他大勢でしかなかった。
ところが、京都に着いたとたん、江戸に大半の浪士が戻ることになった。前年の「生麦事件」の処理をめぐって、横浜沖に12艘のイギリス軍艦が来ており、幕府への謝罪と10万ポンドの賠償金を要求していた。
しかし、江戸に戻らず京都残留を主張し、居残った一群がいた。それが芹沢鴨と近藤勇のグループだった。残留者はわずか14人(または13人)だった。これが新選組の草分けとなった。
地方農村の郷土などが剣術道場を経て「武士になれる」という一念がうずくようになっていた。身分障壁にひびが入って、上昇ルートが見えてきた。このパトスを知らないと、幕末史の深層は理解できない。
京の町を取り締まる役目にあった会津藩士の会津弁が京都人にはさっぱり通じなかった。
そして人手不足にも悩んでいた会津藩にとって、言葉が通じ、腕に覚えのある連中は頼もしい即戦力だった。新選組は権威のある会津藩の部局となった。
酒乱気味のうえ、粗暴な振る舞いの目立つ局長の芹沢鴨は、深夜、愛人とともに滅多切りにされた。会津藩の同意の下、近藤勇たちが斬殺したのだった。
元治元年(1864年)6月、新選組が「池田屋」を急襲し、20数名の尊攘派志士を殺傷した。この池田屋事件が新選組の盛名を一夜にして天下にとどろかせた。
ただし、新選組は、あらかじめ池田屋に志士たちが集まっているという情報を得ていたわけではなかった。三条方面をしらみつぶしに調べて歩いていた近藤隊が思いがけず、池田屋で密議中の浪士立ちに行きあたった。そのため、別方面にいた土方隊が来るのが遅れて近藤らは一時、非常に苦戦した。土方隊が明けつけて盛り返した。近藤勇が大声で「御用改めである手向かいする者は容赦なく切り捨てる」と一喝した。すごい迫力だった。近藤の天然理心流には気合い術もあった。大声でまず相手を畏縮させるのである。
新選組は大時代な立回りはやらない。効率的に横面や小手を狙って斬り込んだ。
池田屋事件の悲劇性は、新選組が多くの人材をむざむざと殺しながら、どんな相手を斬ったのかの自覚がまるでないところに醸し出される。
沖田総司は、天才的な剣術を惜しまれつつ、肺結核のため27歳の若さで死んだ。沖田総司の本領は道場剣法ではなかった。斬りあいの修羅場で発揮された。
沖田総司は、近藤勇や土方歳三に命じられると、黙って相手が誰であろうと斬った。勤王浪士はもとより、裏切り者の成敗にも容赦なく刃をふるった。
池田屋事件における大量殺傷のあと。尊攘諸藩の新選組観が根本から変わった。たかが王生浪士という悔りから、恐るべき強敵として、激しい憎悪の対象となった。新選組は引き返し不能の一点を越えた。新選組に対する情け容赦ない報復が宣言された。
新選組は、それまでのローカルな「王生浪」から、一挙に天下公認の治安警察隊に昇格した。幕府や会津藩の扱いも、にわかに丁重になった。近藤勇には、「与力上席」の内意が示された。禁門の変では、新選組は戦闘現場に出ず、一人の犠牲者も出さなかった。その結果、何も学ばないことになった。
禁門の変は、鉄砲が戦闘の主役を担ったことを意味している。市街戦に大砲が使用され、銃撃戦が勝敗を決した。ところが、新選組は池田屋事件のとき斬撃戦で勝利を得たことから、そこから脱皮する機会を逸した。
慶応3年(1867年)11月15日に坂本龍馬と中岡慎太郎の二人が近江屋で京都見廻組に倒された。
11月18日、新選組から抜けていた伊東甲子太郎が暗殺された。
12月18日、近藤勇は馬に乗っているところを伊東甲子太郎のいた高台寺残党から銃撃され、右肩に甚大なダメージを受けた。 強い相手は鉄砲で倒せばよい。正面から剣の勝負を挑むのは、とっくに時代遅れになっていた。
慶応4年4月、近藤勇は大久保大和と名乗っていたのを見破られて、刑場で斬首された。土方歳三は、函館の五稜郭で、明治2年5月、戦死した。
最後まで面白く、一気に読み通しました。
(2004年8月刊。2100円+税)
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