弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年2月 6日

こんなとき、会社は訴えられる!

司法


著者  渡辺 剛 、 出版  中央経済社

 熊本の若手弁護士による、中小企業の経営者向けの分かりやすくて実践的な、「被告」にならないための心得を解説した本です。
 弁護士の文章にしては実に明快で、実践的なのに驚嘆して読みすすめました。そして、最後の「著者紹介」を読んで、なるほど、と納得しました。
 著者は、もともと名古屋大学の経営学部で経営組織論を専攻していたのです。そのうえ、顧問会社に対する経営指導をしたり、商工会議所で中小企業経営者を対象とする法律セミナーを担当してきた経験が本書に生かされているのでした。
 そんなわけで、本書は中小企業の経営者が裁判で「被告」として訴えられないための「リスクに気づく能力」を高めるための本なのです。
中小企業の経営者にとって、知らないうちに訴えられ、費用や労力、時間をさかれるというのは最悪の事態。そんな費用・労力・時間は社会の経営に役立てるべき。社長が「リスクに気づく能力」を身につけ、リスクの発生可能性を最小限に抑えることは、これからの訴訟社会においては欠かせないもの。
 本書の目的は、法律の勉強ではなく、企業の利益を防衛するために必要な「気づく」センスの向上にある。
 大事なことは法律に何と書いてあるかを学ぶことではない。そんな細かいことは専門家にまかせたらよい。専門家に相談すべきことが目の前に起きているかどうか、この判断ができたら、経営者としては十分なのだ。
 裁判は生き物だと言われている。そして、裁判はそれ自体で、会社にとって損失が生じている。裁判にたとえ勝ったとしても、かかった時間や労力は回復できないし、弁護士費用なども、基本的にはすべて自腹になる。
 客からのクレームは正当なクレームなのか、単なる金銭目的のクレーマーなのか、その見きわめが求められる。
 問題社員を解雇するときには金曜日の夕方に呼び出し、人事役員と弁護士が同席のうえ、解雇通知書を手渡す。そのうえで、解雇通知を渡して解雇したこと、月曜日に自主退職する意思があるときには、それを受けて解雇通知は撤回することを告げる。このとき、解雇通知書には、そのまま裁判所に提出できるくらい詳しい解雇理由をあげておく。
 金曜日に言い渡すのは、土日をはさむことで、家族や第三者に相談して考える時間を与えるため。いずれにせよ、解雇するための段取りは事前に十分に検討しておいて損はない。
 わずか200頁たらずの本ですが、経営者のセンスみがき、リスクをいち早く発見し、どう対処したらいいか、いつ専門家に相談するかを身につけるのに格好の本となっています。
 私にとっても勉強になりました。ありがとうございます。
(2013年12月刊。2200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー