弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年1月23日

魂の経営

社会


著者  古森 重隆 、 出版  東洋経済新報社

 フジ・フィルムがコダックを抜いたかと思うと、写真の現像はなくなり、コダックはついに倒産してしまいました。そして、富士フィルムとして、見事に経営を立て直した社長が力強く経営哲学を展開しています。その指摘には共感できるところが多く、勉強になりました。ただ、あまりにも自信満々の社長(CEO)のようで、従業員の受けとめはどうなのだろうか、その評価を聞いてみたくなりました。また、日本のTPP参加を当然とし、農業の在り方を変えろという主張は、実は、足が地に着いていない主張なのではないか、メーカー側の経営者として、あまりにも勝手なことを言っているという気がしました。安倍首相のお気に入りの経営者だそうで、少しガッカリもしました。
 写真フィルム市場は、10年間で世界の総需要が10分の1以下にまで落ち込んだ。
 かつて、カラーフィルムなど写真感光材料は富士フィルムの売上げの6割、利益の3分の2を占めていた。
 かつては、2700億円の売上げがあったのが、750億円と4分の1になった(2007年)。印画紙をふくめた写真事業全体で6800億円あったのが、380億円にまで激減した。
そうなんですよね。私はまだフィルムカメラも使うのですが、フィルムが店で買えなくなってしまいました。本当に不便です。でも、安心したのは、富士フィルムはこれからもフィルムは作り続けるということです。よかった、よかった、です。
2012年、長年のライバルであったコダック社は、アメリカ連邦破産法11条の適用を申請した。
世界で最初に、フル・デジタルカメラを開発したのは富士フィルムである。これは知りませんでした・・・。
 どれほど業績が良くても、来るべき危険性を予測し、それに備えなければならない。
 これは、私にとっても少しばかり耳の痛い話でした。私の事務所も、ひところ過払いバブルで「恩恵」をこうむっていました。ですから、バブルがいずれ終わるのが分かっていたのですが、それなのに何も手をうっていなかったのです。今、大いに反省しています。
 富士フィルムは、デジタル・ミニラボを写真店に設置して、デジカメの現像を引き受けている。自宅のプリンターでプリントするよりも、はるかに美しく、ハイクオリティで保存性の高いプリントができる。
 3.11の被災地の写真復旧についても、しっかり再生できるのは、水でインクが流れてしまう家庭用インクジェットプリンターで印刷した写真ではなく、表面にコーティングが施されている銀塩写真であり、写真店でプリントされた写真だった。なーるほど、ですね・・・。
 富士フィルムは写真文化を守り続けることを宣言した。企業は算盤勘定だけで存在しているわけではない。写真文化を守ることは富士フィルムの便命である。もうかる、もうからないの話ではない。頼もしい宣言です。
経営者が最終的な判断を外部の人材の助言に頼ろうとしているのであれば、そんな経営者はすぐ辞めたほうがいい。
 富士フィルムは年間2000億円を研究開発費に充てている。先進研究所には、1000人近い研究者が一堂に会して研究している。
円高がもたらした一番深刻な影響は、大多数の日本人経営者や社員から、仕事に向かう気迫をかなり奪ってしまったことにある。
会社の史上最大の危機に直面したとき、社長が学級委員のように、「多数決で決めましょう」などとやることは、ありえない。悠長に民主的に議論している場合ではない。誰かが皆を引っ張っていくしかない。それがリーダーの役割であり、リーダーシップの本質なのだ。
 決断すべきときがきたなら、たとえ、まだ迷っていたとしても、とにかく決断するのだ。そして決断したなら、選んだ道で成功すればいい。たとえ、はっきり答えが見えなくても、決断し、それを成功させるのだと確信し、皆を引っ張っていく。そして実際に成功させる。それがリーダーの力量であり、仕事なのだ。すごい迫力です。
いくら本能、直感が備わっていても、健康でなければ機能しない。いくら体力、気力があっても、精神的に疲れていれば、やはり判断に支障をきたす。
 だから、リーダーは、日々、リフレッシュにつとめ、活力を養い続ける必要がある。
 基盤になる力とは、人間の根本の力とも言える。物事に誠実に向き合う力であり、感じる力であり、考える力であり、実行する力である。
 基盤になる力は、どのようにすれば身につくのか。一つは、社会や会社で体験するあらゆる機会を学びにすることだ。そして、もう一つの方法が、哲学、歴史あるいは文学などの教養書を読むことだ。これらは、歴史観や大局観、価値観を養ってくれる。大事な決断をするときには、これがなければ出来ないのだ。
 部下に役割を与え、悪かったときは、「ここが悪かった」と必ず厳しい評価を与えなければならない。そうすることが、人が育つうえでは欠かせない。叱らない上司は無責任なのだ。ほめるところはきちんとほめる。しかし、ほめてばかりでは、やはり成長はない。
 著者は、ニーチェの著作をほとんど読んだそうです。これには参りました。降参です・・・。
(2013年11月刊。1600円+税)

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