弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年12月 2日

アサギマダラはなぜ海を渡るのか?

生き物


著者  栗田 昌裕 、 出版  PHP研究所

チョウの楽しい話です。著者は生物学者ではない、東大医学部を出たお医者さんです。
 日本全国だけではありません。海外にまでチョウを追い求めて出かけていきます。
 でも、謎の蝶、アサギマダラの行動範囲と行動力は、そんな著者をはるかに上回るのです。これまた信じられません。
 なにしろ、春と秋に1000キロから2000キロもの旅をするというのです。それも、わずか0.5グラムほどの軽い蝶が、ですよ。海を渡ってはるばる南の島から日本にやって来たり、南の島へ飛んでいくのです・・・。
 著者は、そんなアサギマダラになんと13万頭もマーキングしたといいます。これまた驚嘆するほかありません。
 2000キロの旅をする蝶ということですが、2日間で740キロもの海上移動することがあるのです。信じられません。強いジェット気流にでも乗るのでしょうかね。それにしても、チョウの羽って、そんなに丈夫なのでしょうか・・・。
 アサギマダラの寿命は、通常は羽化(うか)してから、およそ数ヶ月。アサギマダラの食べる花には、ピロリジジンアルカロイドと呼ばれる物質(PA物質)が含まれている。これは、オスが成熟するのに必要。オスがメスを惹きつけるフェロモンは、このPA物質からつくられる。アサギマタギラは匂いに超敏感。
 アサギマタギラには24の飛翔パターンがある。すごいですよね。よくぞ、これほどパターンを細分化して認識できたものです。観察眼の鋭さが伝わってきます。
 アサギマダラは、1万年のうちに「海を渡る」ことに適応した。陸地から海に沈んで分断されたことから、必然的に海を渡るようになったということです。そうすると、すごい年月をかけて海を渡るようになったというわけです。
アサギマダラのオスは自分でフェロモンを作れないのでPA物質をふくむ植物を求めて旅を求め続けている。また、移動すると、寄生虫から逃れることができるし、移動することによって、各地の個体の遺伝子がミックスされるチャンスが生まれ、集団としての均一性が保てるという利点がある。
 アサギマダラ集団は、心をもった雲が移動しているようなもの。
 アサギマダラは、小さな「虫けら」ではなく、ヒトと同じく未来を模索して進化を続ける「心を持った生命体」に他ならない。
 アサギマダラの謎を足で解明した画期的な本です。
(2013年9月刊。1500円+税)

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