弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年11月21日

自衛隊にオンブズマンを

社会


著者  三浦 耕喜 、 出版  作品社

現代の日本社会で自殺率の高い組織の一つが自衛隊だ。その数は年100人近くに達する。
 自衛隊は、その発足以来、戦場で誰も殺さなかった。また、隊員から誰ひとり戦死者を出さなかった。そのことは、世界の誇りをすべきことだ。ところが、その陰では、いく人もの自衛官がいじめやストレスの中で自死に追い込まれている。
 日本の防衛省は、省内に自殺対策の組織(防衛省「自殺事故防止対策本部」)を設けている。
 自衛隊の自殺率は33.3で、一般国家公務員の21.7より10ポイント以上も高い。これに対して、ドイツの連邦軍兵士の自殺率は7.5で、一般国民の11.5よりも低い。ちなみに、アメリカの兵士の自殺率は20.2。
 インド洋やイラクなどへの海外任務に就いた、のべ2万人近い自衛隊のうち、16人が在職中に自殺していた。
 このような自衛官の不幸を少しでも減らし、自衛官としての務めを憂いなく果たすことを促すため、「軍事オンブズマン」制度を日本に導入すべきである。これが著者の主張です。
 著者は前に『ヒトラーの特攻隊』(作品社)を書いています。この欄でも紹介しました。
ドイツでは軍事オンブズマンが兵士の悩みに寄り添っている。兵士自身も団結し、自分たちの思いを声にしている。さらに、軍の幹部自らが兵士に対し、自信の良心にもとづき、自分で考えることのできる人間であれと指導している。
 ドイツの軍事オンブズマンは、ドイツ連邦議会が任命する。
 ドイツ連邦軍の全施設に事前通告なしで立ち入ることができる。50人の専属スタッフが働いている。ドイツでは、兵士は、「制服を着た市民」と考えられている。
 軍事オンブズマンのもとへ、年間6000件もの苦情が兵士から寄せられる。
 軍隊は議会がコントロールするもの。議会による軍のコントロールこそ、軍事オンブズマンの要となっている。ドイツは国民男子に兵役義務を課している。
 ドイツには、兵士による団体「連邦軍協会」がある。会員は21万人。ストライキこそしないが、デモはやっている。
 日本の自衛隊とドイツの連邦軍は、どちらも25万人。ドイツ軍は、現在、世界11の地域に合計7000人の兵士を出している。アフガニスタンでは、これまで30人以上の犠牲者を出している。
 そう言えば、ドイツではありませんが、デンマークだったかと思いますが、アフガニスタンに兵士を派遣している状況が映画になっていました。『アルマジロ』というタイトルで、戦場の悲惨さが国内に伝わり、反戦気運が一挙に盛りあがったということでした。
 25万人の隊員をかかえる自衛隊について、もっとドイツのように民主化し、風通しの良い組織に変えていく必要があること、そして、それは必要だし、可能なことを教えてくれる貴重な本です。
(2010年7月刊。1800円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー