弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年9月12日

TPP、アメリカ発、第3の構造改革

社会

著者  萩原 伸次郎 、 出版  かもがわ出版

あれだけ大騒ぎした(している)TPPなのに、そして政府はすでに交渉をはじめているというのに、その交渉状況はまったく報道されません。もちろん、「秘密」にされているからなわけですから、それにしても、その「秘密」をかいくぐってでも状況と問題点を国民に知らせるのがマスコミの責務ではないでしょうか。ここは、マスコミの奮起を大いに期待したいところです。
 TPPでは、協定案ができるまで、交渉は秘密裡におこなわれるというのが、その特徴である。日本がTPP交渉参加国として協議にのぞんだとしても、日本が重要品目を守るのは難しい。安倍首相のいう「聖域」を設けるのは、不可能に近い。
 日本農業への壊滅的打撃が予想される。農水省の試算によると、農業生産の減少は
4.1兆円という規模になり、日本の食糧自給率は40%から14%に激減してしまう。
 とりわけ農業生産量の盛んな北海道のTPPによる影響はすさまじい。関税を撤廃したとき、12品目(米、小麦、乳製品、牛肉など)の影響は、産出高で4931億円の減少。地域経済の尊出額は7383億円、全農家戸数4万戸のうち2万3000戸が減少する。そして11万2000人の雇用が失われる。これでは、たまりませんね。
 アメリカは「ゆうちょ」「かんぽ」の完全民営化を主張してきた。今度、全国の郵便局がアフラックと提携するとのことですが、まさしくアメリカ資本が日本の郵便局を支配しようとしています。
 アメリカは、ことあるごとに医療分野での市場開放を要求している。
 TPPへの参加は、医薬品の関税撤廃だけでなく、医薬品市場の規制を取り払うことによる市場の自由化をもたらす。
 アメリカは、日本の薬価が諸外国に比較して安すぎると主張し、その要因が公的薬価制度にあると言い続けている。薬の自由市場が実現したら、日本の薬価は確実に値上がりする。そして、薬価制度の自由化は、公的保険制度を崩壊に導くことになる。
 薬価制度の自由化を通じて混合診療の全面解禁がおこなわれているのではないか。
 もし混合診療が解禁されたら、自由診療が保険診療を押しのけて大きく幅を利かせていくことになる。
 効能のある新しい薬は、高額所得者だけに使われるという医療格差が生み出される。医療法人に株式会社が導入され、薬価も自由市場によって決定され、製薬資本の思いのままに価格設定がなされる仕組みが幅を利かせていくようになる。そうなれば、日本の公的医療システムは崩壊してしまう。
 マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』はアメリカの医療のすさまじさ(ひどさ)を思い知らせてくれました。アメリカは、金持ちは保険でもなんでも使えるけれど、中産階級以下は保険会社から切り捨てられてしまう冷酷な社会なのです。
 TPP推進は、多くの日本人にとって不幸を招くことがよく分かる本です。でも、残る大金持ちの日本人にだって、次はあなたに不幸がまわってくることを忘れてはいけません。いつまでも他人事(ひとごと)ではすまされるはずはありませんよ。TPP賛成の人は、この本を読んでぜひ考え直してほしいと思います。
(2013年5月刊。900円+税)

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