弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年9月30日

千曲川ワインバレー

人間

著者  玉村 豊男 、 出版  集英社新書

日本でも、おいしいワインはとれるし、うまくいけば採算もとれるんだよという、うれしくなる本です。
 私は赤ワインが大好きです。今でも、気のおけない新しい友人と食事をしながら、大いに語らいながらなら、一人でワイン1本あけることは出来ると思います。(そんなことは、ほとんどしていませんが・・・)。たいていは、高価なワインをグラスで2杯、少しずつ味わって飲むようにしています。だって、酔っ払いたくはありません。本を読める頭は保っていたいのです。
 フランスに何回も行きましたので、ボルドー(サンテミリオン)、スルゴーニュ(ロマネ・コンティやボーヌなど)、そしてカオールにも行って、ワインを堪能しました。現地で飲むワインはテーブル・ワインをふくめて本当に美味しくいただけます。
 この本は、日本ワインのすばらしさを語っています。日本ワインは、ほとんど味わっていませんので、これから挑戦することにしてみましょう。
 著者が標高850メートルの信州の里山にワイン用ブドウの菌木を植えたのは、今から20年も前のこと。専門家から、この標高ではブドウは栽培は無理と言われた、素人の無謀な挑戦だった。
 ところが、醸造開始の2年後には、国産ワインコンクールで銀賞、5年後には最高金賞を受賞した。今では、毎年4万人以上の客が来る。
著者のヴィラデストは、上田盆地と千曲川の流れを眼下にし、はるか彼方に北アルプスの稜線をのぞむ丘の上にある。
 ヴィラデストとは、ここだ、ここにあるという意味のラテン語である。
 標高850メートルでは、寒過ぎて、積算温度が足りず、霜害や凍害にあう可能性が高い。そして、畑の土質はきわめて強い粘土質だった。千曲川の流域は、日本でも有数の少雨地帯。雨はブドウにとって大敵だ。
甘くておいしい食用のブドウは、ワインにすると、おいしいワインにはならない。ワインにしておいしいのは、粒が小さく、甘みも強いが、同じくらい酸味もある、複雑な味のするブドウ。ワインの場合、一本の樹につける房の数は、できるだけ少ないほうがよい。根が大地から吸った栄養を少ない数の房に集中させるのが、おいしいワインを生み出す秘訣だ。たくさんの房をつけた樹のブドウからつくるワインは味が薄くなってしまう。
 ワインづくりに人間が介在するのは3割。ワインの出来を左右する、あとの7割はブドウの質による。ワインブドウは、農地を借りてから収穫ができるまでに、5年間くらいは収入を見込めない。
 ワインぶどうの生産者価格は巨峰の半分ほど。しかし、巨峰と較べると、はるかに栽培の手間がかからない。ひとりで管理できる畑は倍以上の面積になる。単価が半分でも面積が倍になれば、収入は同じという計算になる。
 ワインぶどうは、きわめて環境適応能力の高い食物で、多様な気候に対応することができる。日本には日本でしかつくれないワインがある。
 コルクによって、少しずつ熟成していくというのは実は誤解。スクリューキャップのほうが、品質管理上も安心だし、衛生的。
 サンテミリオン(ボルドー)のワイン畑のなかにあるロッジのようなところに泊まったことがあります。時間がゆったり流れていくなかで、明るいうちから美味しい料理と赤ワインに舌鼓をうちました。いい思い出になりました。
 今度は信州の千曲川ワインバレーに行ってみましょう。
(2013年3月刊。760円+税)

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