弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年9月 3日

憲法の創造力

司法

著者  木村 草太 、 出版  NHK出版新書

憲法学会の若き俊英が世に問う、ラディカルで実践的な憲法入門書。これは本のオビにあるキャッチ・フレーズです。そうならば、手にとって読まざるをえません。
 実りある憲法論のためには、何より想像力が重要である。
 そうなんです。条文(案)に何と書いてあるか、それがどういう意味なのかを知るためには、想像力が重要なのです。
 卒業式で、君が代を斉唱させ、日の丸掲揚を義務づけ、それに反する教員を処分する。これは、まさしく憲法問題である。
 著者は、次のように指摘します。そもそも、校長が式典での所作について命令を出すというのは、いかにも強権的である。冷めた目で見てみれば、「歌をうたえ」という職務命令が出ること自体が滑稽ですらあろう。たとえば、教員に対し、「入学式では、ちゃんと『ビューティフル・サンデー』をうたえ」という職務命令を出したり、歌わない教員に戒告処分や減給処分を科したりする学校があったら、多くの人は「変な学校だなあ」と思うのではないか。「ビューティフル・サンデーを歌わなかったこと」を理由とした懲戒免職など、もはやコントの域である。
 まったくもって、そのとおりです。学校を世界の常識が通用しない場にしてはいけません。それでは、何より子どもたちが可哀想です。
 生存権の保障というのは「フツー」の人の支持を「自然に」集められる政策ではない。貧困とは縁のない(と思っている)人々は、国家財政は、救貧施策ではなく、もっと文化的なものや、景気を刺激する政策に使ってほしい、と考えるかもしれない。また、勤労の才能に恵まれた「フツー」の人から見れば、生活保護受給の中には、「怠けている」ように見える人もいるだろう。
 しかし、個人の尊重という規範を貫くためには、生存権保障という「不自然」きわまる制度の意義を「フツー」の人々に十分に理解できるように説明できなくてはならない。
 憲法25条1項は、制度の現状を調査し、そこで何が行われているかに想像力を働かせ、改善のための想像力を発揮することを求めている。
 「最低限度」の生活に何が必要かを真剣に検討し、社会住宅の提供やコミュニティー形成への援助の重要性を憲法教育の現場で教えられていたら、政治や行政の現場も今とは違う状況になっていたかもしれない。
 ちょっと冷静に考えてほしい。休日に政治的行為をする人は、仕事でも政治的に偏ったことをするはずだという信念は、不合理な偏見にすぎない。私も、全く同感です。
憲法9条は、日本国の非武装を要求しているのではなく、日本国が非武装を選択できる世界の創造を要求しているということである。
 日本が非武装を選択できる世界の創造は、終わりがないと思えるほど途方もない仕事かもしれない。しかし、これは世代をこえて受け継がれなければならない仕事である。
 まだ30代前半の若きケンポー学者の指摘には本当に鋭いものがありました。
 多くの人に、とりわけ若い人に読んでほしい憲法の本です。
(2013年7月刊。780円+税)

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