弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年8月31日

オウム真理教秘録

社会

著者  NHKスペシャル取材班 、 出版  文芸春秋

オウム真理教と言えば、私にとっては坂本堤弁護士一家殺害事件と地下鉄サリン事件を忘れるわけにはいきません。
 オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件が起きたのは、1989年11月のこと。私と同期で親しい岡田尚弁護士(同じ横浜法律事務所)と別れた日に一家で住んでいたアパートに踏み込まれて、妻子ともども殺害されてしまったのでした。
坂本弁護士夫妻は、全国クレジット・サラ金被害者交流集会で大牟田市に来たこともあり、面識ある関係だっただけに、その「救出」活動に私も少しばかり関わりました。殺害されたあとに「救出」というのも変ですが、どこかに「拉致・監禁」されているという話もあったのです。占い師というのは、まったくあてにならない存在だと改めて実感したのは、このときです。すべての「占い」が見事にはずれてしまいました。
 私は、事件の真相が見えていないとき、坂本弁護士一家の住んでいたアパートの見学会にも参加しました。フツーの庶民の住む、どこにでもあるアパートです。この前途有為な弁護士が殺害されたのには、マスコミの責任重大でした。テレビ局が軽率にもオウム真理教に事前に画像を見せてしまったのです。
 霞ヶ関サリン事件についても、その後まもなく日弁連の会議で上京した私にとって、他人事(ひとごと)ではありませんでした。
 そんな殺人集団の信者が今でも存在するなんて、とても信じられません。
 熊本の波野村(なみのむら)にオウム真理教の拠点がつくられようとした話も怖いですよ。ここに教団武装化の拠点をつくろうとしたというのです。上九一色村のサティアンと同じような施設がつくられようとしたわけです。本当に怖い話です。それでも、抵抗した村民は、まさしく生命がけでした。本当に偉いものです。
麻原は、不遇な生いたちや学業・事業での挫折から、強い被害妄想と誇大妄想があった。自らの不遇・挫折について、弾圧されるキリストのようなものとして、奇妙な形で正当化しようとした。そして、麻原には、不幸にも霊能的なカリスマ性があったため、誇大妄想が強まっていった。
未解決事件といえば、国松警察庁長官の襲撃犯も、結局、今のところ検挙されていません。ひところはオウム真理教の信者である、射撃のうまい警察官が犯人だとされていました。しかし、それも「無実」が確定して、まったく犯人の手がかりはありません。これでは世界一有能な日本の警察という看板が泣いてしまいますね・・・。
(2013年5月刊。1600円+税)

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