弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年7月17日

赤ペンチェック自民党憲法改正草案

司法

著者  伊藤 真 、 出版  大月書店

自民党の憲法改正草案を紹介し、その問題点を分かりやすく解説している本です。カリスマ講師との定評ある著者の手になるだけあって、さすがにすっきり明快です。
憲法は強い立場の者から弱い立場の者を守る役割を果たすもの。
 そうなんですよね。取締役の年俸1億円なんていう大会社に支えられている自民党・安倍政権が言い出した憲法改正が、弱者救済を目ざしているなんて、とても考えられません。
 近代以降の憲法は、国家権力から国民の自由を守るためにつくられたもの。個人の尊重が国家の基本的な価値であることが中心で、それを実現するために立憲主義が採用された。立憲主義の考え方は、古代ギリシャ・ローマ時代にすでにあった。
 立憲主義は、国民の権利・自由を保障することを第一の目的として、権力者を拘束する原理である。だから、憲法には、必ず人権保障と、国家の権力を分ける権力分立(三権分立)の定めが必要になる。
 今の自衛隊を、自民党は「国防軍」に変えると言う。これは、単なる名称変更ではない。今の自衛隊は、たしかに装備や人員の点から戦力と言えるが、憲法9条2項のしばりがあるので、交戦権はない。つまり、敵国兵士を殺したり敵国の基地を破壊したりはできない。自民党の改正草案は、日本がアメリカと共に普通に戦争のできる国になりたいということ。日米同盟を強固なものとし、アメリカの従来からの要請に応えたいという自民党の思いを「改正憲法」に結実させたもの。
自民党の改正草案では、「個人として尊重される」とあるのを「人として尊重される」に変える。個人を人に言い換えることに、どれほどの意味(違い)があるのか・・・。個人として、一個独立の人格をもつ人間として尊重されなければならない。すなわち、まったく重要な点で変更されることになる。
 自民党草案には、新しい環境権なるものが取り入れられていることを積極的に評価する人に、本当にそうなのか、と鋭い問いかけがされています。
 肝心の環境権なるものは、国の努力義務でしかない。さらには、今や判例上も確立している環境権が、かえって後退してしまうことになりかねない。
 環境権やプライバシー権などは、現在も解釈・運用で使われているものです。
 自民党の改憲理由がきちんと紹介されたうえで、それが論破されています。ですから、読んで胸がすく思いがします。
 カラーを使った、見た目にもセンスのいい本です。とりわけ多くの若者に読まれることを願っています。
(2013年6月刊。1000円+税)
 東京で時間をつくってイギリス映画「アンコール」をみました。じんわりと心が温まる、いい映画でした。年金生活の男女が公民館に集まってコーラスを練習し、コンクールに出場するというストーリーです。歌声がすばらしいです。とくに主人公と、その奥さんがそれぞれソロで歌うシーンでは、歌声に聞きほれてしまいました。
 イギリス映画には、ときどきこのように庶民を主役にした、いい映画がありますよね。いま、福岡でも上映中です。おすすめします。

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