弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年6月30日

建築家、走る

社会

著者  隈 研吾 、 出版  新潮社

この忙しさは半端ではありません。世界をまたにかけて飛びまわる毎日です。よくぞ、これで身体がもつ、と本を読みながら不思議な思いに駆られました。
 設計のプロセスは悩みと迷いの連続である。しかし、プレゼンテーションの場では、悩みや迷いは一切見せない。いつでもストレートに言い切って、相手を安心させる。
 建築家は、設計競技(コンペティション。コンペ)への参加の依頼を受ける。その戦いに参加して選ばれないと仕事は始まらない。今では一年中、そういうレースに駆り出されている。いってみれば、毎週レースに出なければいけない競走馬みたいなもの。今、建築家は、そんな状況に耐えられる精神力、体力がないとやっていけない職業になっている。
 レースに引っぱり出されなかったら仕事がない。仕事がなかったら、事務所も自分もつぶれる。つぶれないために、休みもなしに走り続ける。そういう過酷な場に引き出されている。いやはや、大変な職業ですね。
中国政府が景観デザインに厳しくチェックするのは、政府によるバブルの延命策そのもの。中国で一番もうかるのは、それはデベロッパーが大規模な開発をして、不動産価格を上昇させること。ただし、不動産価格があまりにも急激に上昇してバブルになると、民衆の不満がたまって政情自体が不安定になる。中国政府はバブルを破滅させるわけにはいかないし、かといって野放しにするわけにもいかない。そこで、不動産業界に一定の規制をかけて、バブルをスローダウンさせながら維持するという微妙なコントロールが必要になる。
 いまの中国政府の最大課題は、バブルを柔らかくコントロールする方法である。さすがに官僚国家を何千年もやっているだけに、中国の役人は自分たちへの利益誘導が巧みだ。利益誘導といっても、露骨で分かりやすい方法はとらない。量から質へという転換のプロセスの中に官僚の利権も隠れていることを自覚している。世界がテーマとしていることが、結局は、利権獲得の最短の道筋だと理解している。うひゃあ。そんな見方ができるわけですね・・・。
 中国には、そもそも客観的基準というものがない。それぞれのプロジェクトごとに政府に申請し、担当の役人とネゴする。ネゴをベースにすると、そのネゴから役人の利権が無限に生じる。そのネゴのプロセスを通過してはじめて建築を実現できる。タフでハードボイルドな世界がある。めんどくささ、屈辱にめげず、ニコニコし続けていないと、」中国では通用しない。
 中国は、あらゆる民間企業がオーナーカンパニーである。これに対して、日本はサラリーマン機構であって、リスク回避システムとなっている。中国では、酔わなければいけないけれど、崩れてはダメ。その微妙なバランスが一番大事。中国は飲酒が打ち上げではなく、ゲート。この面接試験をうまくパスしない限り、前に進めない。中国は基本的に私情よりも論理を大切にする。
 アメリカの建築界はユダヤ人が掌握している。国際レースの仕掛け人は、ほとんどユダヤ人。ニューヨークでは、金融界と同時に、メディア界もユダヤ人が押さえている。これは実は法曹界についても言えることです。有力(有名)な弁護士の多くがユダヤ人です。
 これからもっとも注目すべきは韓国だ。このところ、韓国は世界のプロジェクトで連戦連勝している。日本人は、のどかな田舎の村で、こたつに入ってぬくぬくしているようなものだ。著者は、歌舞伎座改築に関わりました。まだ見ていませんが、ぜひ見てみたいものです。
 著者は大手の設計会社、そしてゼネコンにそれぞれ3年ずつサラリーマンとして働いています。そのあと、アメリカに渡って勉強しました。
ディベート教育で建築を教えている限り、アメリカに将来はないと直観した。
 著者が世界を飛びまわっているのは、現場を見てみたいから。ナマのもの、ナマの人、ナマの場所に出会いたい。旅行しないと絶対にナマの声には出会えない。
 2泊3日でフランスに行って、日本にいったん戻った翌日にまたフランス入り。翌日からイタリア、そしてクロアチアでそれぞれ2泊して帰国。その次の週はチリ、アメリカ、カナダのあと、アルバニアとマケドニアに1泊ずつで移動して、早朝に関空着で帰国。昼は奈良の現場を見て、大阪で打合せをして、夜は京都で講演会、最終の新幹線で東京に帰り、翌早朝に中国へ出発。なんという超過密スケジュールでしょうか。人間わざとは思えません。
 著者はパソコンをもたない。パソコンをもたないからこそ、自分を保てている。出先にもっていくのは、お財布とiPodとガラケー(スマホではない)。
 スタッフは、報告しない人はダメだが、報告が長すぎる人もダメ。
圧倒されてしまいます。私より6歳も年下ですが、その行動力に息を呑みました。
(2013年5月刊。1400円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー