弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年6月15日

コリーニ事件

ドイツ

著者  フェルディナント・フォン・シーラッハ 、 出版  東京創元社

日本とはかなり異なる弁護士事情です。私は弁護士生活40年になりますが、刑事裁判で無罪判決をもらったのは、たったの2件しかありません。うち1件は検事控訴されることなく一審で無罪が確定した詐欺事件でした。もう一件は検事控訴されて二審は逆転有罪となり、最高裁で有罪が確定した公選挙違反事件(演説会の案内ビラを配布したのが戸別訪問とみなされた事件です。こんなのが罪になるなんて、公選法のほうが間違っていると、今も考えています)です。残る事件は、いわゆる情状弁論を主とするものばかりです。したがって、ドイツ流に言うと、私は「勝てない弁護士」ということになりそうです。でも、本人も周囲もそんなふうには思っていません。
 この本は、ドイツの現職弁護士が書いた殺人事件の顛末を描いた推理小説です。ですから、ネタバレは禁物です。とは言っても、少しだけ紹介します。
弁護士は新米で、法廷での手続もよく分かっていません。
 経済界の大物経営者が突然、見知らぬ男に殺害されてしまいます。男は殺害後、すみやかに自首します。そうすると、弁護人として一体何ができる、何をするのでしょうか・・・。
 この本のオビによると、「ドイツでは35万部突破!」ということです。
 殺人行為を被告人が否定せず否定する意欲もないとき、そのとき、弁護人は何をしたらよいのか・・・。
 実は、被害者は元ナチスの高官だったのです。そして、この本の著者も有名なナチス高官のシーラッハの3世です。そうなんですね。ナチス高官の3世たちが今のドイツで活躍しているというわけです。ヒトラー暗殺未遂で首謀者だったドイツ国防軍の高官の3世も紹介されています。
ドイツでこの本が35万部売れたというのは、それだけナチス・ドイツが単なる過去の問題ではないことを意味しています。ひるがえって、日本ではどうなんでしょうか、過去への反省があまりにも足りないように思います。安倍さんのように開き直りが目立ちすぎますよね。これでは国際社会に受け入れられません。日本が侵略戦争したことをきちんと反省してこそ、日本の生きる道はあるのです。それは自虐史観などと言うものでは決してありません。加害者は忘れても被害者は忘れないのです。
(2013年4月刊。1600円+税)

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