弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2013年6月14日
安倍政権と日本政治の新段階
社会
著者 渡辺 治 、 出版 旬報社
2012年12月の総選挙で自民党が圧勝し、それによって誕生した安倍政権への支持率は7割近いという高い支持率を誇っています。しかし、この本は、その自民党「圧勝」は実は「幻」でしかないことを明らかにしています。「落日」の前に「栄華」に過ぎないというわけです。いやはや、政治という奈落の舞台の奥深さを垣間見た思いのする本です。
たしかに自民党は議席では圧勝したが、その政治的基盤はきわめて脆弱(ぜいじゃく)だ。自民党は得票率こそ0.89ポイント増やしたが、得票数では219万票も減らした(比例代表選挙)。2009年の総選挙で自民党は歴史的大敗をこうむり、119議席に落ちこんだ。それから1ポイント弱しか獲得票は増えていないのに、議席は175議席も増やし、「勝った」のだ。これは、もっぱら小選挙区での勝利による。
自民党が大勝したのは、民主投票が歴史的に激減したことによる。民主党の得票数は、なんと2021万票も減った。その獲得票は42%から16%へと実に26%も減らしている。民主党票の激減は地方でも大都市でも、同じように生じている。民主党への「左」からの支持層も「右」からの支持層も相次いで離反した。この結果、自民党はただ黙って座っているだけで、民主党が落ちたために「大勝」したのだ。
このように、自民党は議席で「圧勝」したけれど、政治基盤は脆弱なまま。保守二大政党の機能麻痺が起きて、保守多党制の時代に入った。
保守二大政党制は、当の政権にとって、その喪失は悪夢であるが、保守支配層にとってみたら、すこぶる安定した体制なのである。
うむむ、さすがは政治学者ですね。どっちに転んでも、なるほど大差はありませんよね。ライスカレーとカレーライスほどの違いもありません。
例の維新の会は、相次ぐ橋下代表の暴言によって、このところ一気に支持率を著しく低めてしまいました。
維新の会が「躍進」したのは、民主党政権に期待して、裏切られた大量の票が自民党に帰らず、かといって「左」の共産党にも行かず、「第三極」の新しい政治を求めたことにある。
ここでは、「左」の責任というより、マスコミの責任が大きいように私は思います。マスコミは、あまりに「第三極」「橋下」「維新」を持ちあげすぎですよ。
維新の会は、政治対立軸を大きく右にずらす役割を担っている。構造改革と軍事大国化の双方を急進的に主張する政党に脱皮している。
このところ革新政党の退潮が著しい。なぜなのか?それは、小選挙区制によって、悪しき「常識」が定着したことによる。選挙区で革新政党に投票しても議席に結びつかない「常識」が定着してしまった。そのうえ、マスコミは少数政党の政策を報道せず、無視するようになった。その結果、浮動票の減少、獲得票の固定化の傾向が著しい。
現代のマスコミは、大政翼賛会の時代のマスコミより悪い役割を果たしている。現代のマスコミは、決して権力的な統制下にあるわけではない。しかし、支配階級の意を受けた方向に「善導」する役割を果たしている。そして、マスコミは小選挙区制下での少数政党の停滞を自らの少数意見無視の姿勢の正当化の材料として使っている。
そこには、マスメディアも企業であるという論理がある。つまり、お金もうけのためには、何をしても許されるということです。そこに「社会の公器」という視点はありません。
たとえば、来年から消費税の税率が5%から8%に上がろうとしています。新聞協会は新聞についてだけは消費税率を上げしないように政府に強力に働きかけています。一方で「増税賛成」と大声で叫びながら、実は自分だけは「増税」しないように陳情しているというのです。まさに二枚舌の典型です。許せませんね。
アジアのなかの日本を考えるとき、アメリカは今や日本より中国を重視している現実をみなければならないアメリカのアジア戦略にとって、中国は欠かせない存在である。中国が一番警戒しているのは、日本の軍事大国化である。
日本政府は3.11の福島第一原発事故の原因の究明も尽くさないうちに、日本の「原発」を世界各地に輸出する話が進んでいます。安倍首相がトップセールスに駆けめぐっているのは見苦しい限りです。「原発輸出」って死の商人のすることではないでしょうか・・・。それよりむしろ日本の技術力とあわせて、平和憲法の前文と9条を世界に普及しましょう。日本の政治のあり方をさわやかな切り口で考えさせてくれるブックレットです。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2013年5月刊。1200円+税)
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