弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2013年6月 5日
児玉誉士夫、巨魁の昭和史
日本史(現代史)
著者 有馬 哲夫 、 出版 文春新書
児玉誉士夫と聞くと、戦前は帝国陸軍のスパイの親玉として中国大陸でさんざん悪いことをして巨財を成し、戦後はその巨財をもとに自民党を背後で操っていた薄汚い右翼の黒幕というイメージがあります。果たして、その実体はどうだったのか、興味深く読みすすめました。
児玉の最終学歴は商業学校の夜間部に2年通っていたこと。児玉は1929年、赤尾敏の主宰する国粋主義団体「建国会」に入り、青年部の部長になる。昭和天皇の車に駆け寄って直訴状をつき出し、懲役6ヶ月の刑を宣告されて下獄した。その後、1931年5月には大蔵大臣爆破事件に関わり、懲役4回月の実刑も受けた。その後もクーデター未遂などで刑務所に入っていて、1937年4月に出所してきた。そして、中国大陸に工作員として派遣された。
中国における児玉機関が秘密工作をするときには、三井物産、王子製紙、東洋綿花など、三井財閥系の企業を隠れみのとして使っていた。
三井と軍部のスパイは深い関係にあったというわけですね。
海軍は児玉に対して資金を提供するのではなく、上海で現地の人々から没収した資産などを取引原資として与えていた。なんと20万中国ドルも与えたという。暴力的手段をとらないことが児玉機関のポリシーだった。というのも、物資の調達にあたって暴力に訴えるというのは、児玉機関にとって引きあわないリスクを冒すことだったからだ。
児玉は戦後、アメリカ軍からA級戦争犯罪容疑者の指定を受けて巣鴨プリズンに収監された。しかし、児玉本人は、まさか自分が戦犯リストにはいるとは思っていなかった。その点は、笹川良一とは対照的である。
1946年夏以来、児玉は危険人物というより、連合国軍側の重要な情報提供者として巣鴨プリズンに留め置かれた。GHQは児玉をアヘン売買で罪に問うつもりはなかった。アヘン王といわれた里見ですら戦争犯罪に問われないことを決めていたからだ。GHQが里見のアヘン売春を暴くと、それに深く関わっていた中国・国民党も同じく戦争犯罪に問われなければいけない。しかも、この仕組みを考案したのは、連合軍のメンバーであるイギリスだった。
終戦直後の児玉機関の資産は、当時のお金で7000万円だった。そして、鳩山が自由党をつくるとき、児玉が鳩山に与えた政治資産は1000万円だった。東久邇宮内閣は児玉を参与とした。これは、児玉がもっと大きな資産をもっていると見込んで、必要なときには出してもらえると思っていたからだった。
戦後まもなくから、児玉はアメリカのエージェントになっていた。要するに、児玉はアメリカのスパイになったわけです。これで右翼として、日本を愛せといっていたのですから、噴飯物ですよね。
児玉は鳩山に尽くしてきたが、鳩山は首相になると、ソ連との国交回復とか独自路線をとるようになった。そこで、憤慨した児玉は、鳩山を見捨てて、緒方に乗り換えた。
岸信介は、児玉を必要とせず、また、頼もうともしなかった。岸は児玉に頼らずとも、「強力な資金源」と「闇の力」をもっていた。岸が頼ったのは、アメリカのCIA資金だった。だから、CIAは児玉のライバルになった。
児玉誉士夫がアメリカのスパイとして、日本の政財界を操っていた様子が詳細に紹介されている本です。
(2013年3月刊。940円+税)
今年もホタルの季節となりました。歩いて近くの小川に足を運びます。地元の人が「ホタルの里」として手入れして整備しているエリアがあります。ゆらゆらと明滅しながら飛んでいるホタルを見ると、いつもながら夢幻の里に迷い込んだ気分になります。
見知らぬ子が「ホタルをとって」と叫んでいるので私が両手で包むようにホタルをつかまえて、その子に手渡ししてやりました。ホタルはじたばたすることなく、しばらくは手のひらにとまって明滅してくれます。その子の若いお父さんからお礼を言われ、いいことをしてやったとうれしくなりました。
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