弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年6月16日

古代ローマ帝国1万5000キロの旅

ヨーロッパ

著者  アルベルト・アンジェラ 、 出版  河出書房新社

古代ローマ帝国の実態を克明に紹介した画期的な本です。この本によっていくつも新しい知見を得ました。なかでも怖いなと思ったのは、古代ローマでは誘拐が頻繁だったということです。
ローマ人の誘拐の主な目的は、さらった相手を奴隷にすることにあった。奴隷は毎年50万人も新しく加えられていた。どうやってか・・・。第一に戦争によって、第二に国境の外での人間狩り、第三に誘拐によって。
誘拐はどこでも起きる可能性があり、安全な場所などなかった。パン屋のあるじがお客を、宿屋が泊まり客を誘拐して奴隷として売り飛ばすことさえあった。路上も危ない。帰宅の途中、仕事への途中で誘拐されることさえあった。そして大農園のなかで、劣悪な労働環境の下で、死ぬまで働かされた。誘拐は、手っとり早く、ただ奴隷を手に入れる手段になっていた。誘拐犯が好む相手は子どもだった。古代ローマでは、出かけるときには誰もが外で誘拐にあうという危険な認識をしていなければならなかった。うへーっ、こ、これは怖いことですね。
 話は変わりますが、私はフランスのポン・デュ・ガールに行ったことがあります。南フランスのアヴィンヨンからバスで1時間ほどのところにありました。古代ローマの水道橋なのですが、実に状観です。三段になったアーチ型の優美かつ壮大な水道橋です。本当に圧倒されます。高さ48メートル、長さ370メートルというものです。2000年前のものが今もそのまま残っているなんて、すごいことですよね。
 水道橋ですから、要するに水を流していたわけです。どうやってか・・・。勾配をつけていたのです。水源から町までの50キロメートルを、山あり、谷あり、川ありの所を一定の勾配で水を通したのです。その勾配は1キロメートルあたり25センチというのです。1センチの誤差もなく、50キロにわたって導水管を通していたというのですから、古代ローマ人の土木技術の水準の高さには開いた口がふさがりません。それをわずか15年で完成したというのです。ここまでくると、いやはや、何とも言いようがありません。
古代ローマ人の造ったもっとも偉大な建造物は、何か・・・。それは、道路である。全長8万キロ以上になる。地球を2周できる計算だ。
そして、これは軍事目的でつくられた道路だ。古代ローマの道路は、水はけがよく、水がたまらない。道幅は4メートルあって、2台の馬車が行き違えるようになっていた。
古代ローマの女性は、法律上夫や兄弟に干渉されることなく、家族の遺産や財産を自由に使うことができた。女性も男性と同じように寝そべって食事するし、公共浴場に行くし、飲酒もする。そして、容易に離婚できたので、次から次に離婚した女性も少なくなかった。
古代ローマの女性は、大きな権力と夫からの自立を得ていた。離婚も、数人の証人の前で宣言するだけでよかった。離婚するときには、基本的に持参金の金額が女性に返還された。
古代ローマのスタジアムには15万人も収容できるものがあった。現代のスタジアムでも、その規模のものはない。映画『ベン・ハー』は、古代ローマの競技用戦車そのものを再現しているのではない。あれでは、あまり重すぎて、レースに参加することはできない。
古代ローマ人の生活をまざまざと再現してくれる面白い本です。
(2013年2月刊。3200円+税)

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