弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年4月22日

犬とぼくの微妙な関係

生き物

著者  日高 敏隆 、 出版  青土社

適応度増大のためにとるべき戦略は、オスとメスとではまったく逆である。メスはオスに迫られても、すぐには応じない場合がほとんどである。知らん顔をしてみたり、逃げたり、明からさまに拒んだりする。複数のオスに近づかれると、メスはその中からどれかを選ぶ。
 メスは対称的な体をもつオスを選ぶ。対称的なオスを美しいと思うからではない。身体がより対称的な個体は、極端に非対称になっている個体より遺伝的にしっかりしたところがあることになる。そこでメスは、体つきの対称性を手がかりにして、そのようにしっかりしたオスを選ぶのだろう。
母親にとってかわいいのは子どもではなく、子どもがもっている自分の遺伝子なのだ。つまり、母親があらゆる苦労を身の危険もいとわずに子育てに努力を傾けるのは、子どものことを思ってではなく、あくまで自分の適応度増大というまったく母親の利己的な動機によるものなのだ。
 ワシ・タカ類は、卵を二つうみ、ヒナがかえる。そして、第一のヒナが無事に大きくなると、第一のヒナは二番目のヒナを殺してしまう。そして、親はそれを見て見ぬふりをする。
 これは、第一子が無事に育たないときの「保険」として第二卵をうんでおくことによる。第一子が第二子を殺せるくらい頑丈に育ったら、保険はもう要らない。そこで、第一子の食物を確保するために、第二子は第一子に殺させる。うむむ、自然の摂理はよく出来ていますね。
 性があることによって、動物は、単に遺伝子を混ぜあわせて多様性をつくりだせるだけでなく、偶然に生じてくる突然変異を急速に集積して有利な特徴をもつ個体を次々に生じることができる。これは性の存在のもたらす大きな利益である。
 ツバメは、渡るときには夫婦別々に飛んでくるようで、たいていオスが先に帰ってくる。そして、前の年に巣をかけた場所を覚えていて、結局は夫婦とも同じ地域に戻る。前年と同じペアで巣づくりを始める。しかし、旅先や旅の途中で不幸にあうものもいるので、半分ほど。
 ツバメが人家を好むのは、巣やひなに悪さをするスズメが来ないから。人の出入りが多い家や店ほどツバメがよく巣をかけるのは、そのため。店が繁盛しているからツバメが来る。
 コウモリは、鳥はなく、モグラとかハムスターに近い哺乳類だ。巣ではなく、赤ちゃんを産み、乳を飲ませて育てる。そして、コウモリは鳥よりも上手に空を飛ぶ。
猫も実は、人間に深く依存している。絶えず人間の動きを気にしている。その状況が猫にとって実に幸せなのである。猫はまず視覚によって世界を認知する。嗅覚はその次である。猫は視覚もすぐれている。
 たくさんの生き物について、語られている面白い本でした。さすがは動物学者です。
(2013年1月刊。1900円+税)

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