弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2013年4月12日

原発はやっぱり割に合わない

社会

著者  大島 堅一 、 出版  東洋経済新報社

福島第一原発事故の特徴は、長期にわたって収束できずにいること。政府の「収束」宣言にもかかわらず、実際には、「収束」にはほど遠い。
 福島原発事故は、これまでとはまったく次元の異なる事故である。放射能の放出量が非常に多かったことが一つの特徴。長期的影響が問題になっているセシウム137でみると、広島原爆の168倍も出ている。
 福島原発事故の直後、NHKや民法は、原子力に批判的な専門家をニュース番組に登場させることはなかった。安全は保たれているとか、メルトダウンは絶対に起きないと繰り返し解説していた。
 危険性をいたずらにあおるべきではないという。しかし、このような事故が起きて危険性を軽視することのほうが、国民の安全確保観点からは正しくない。最悪の事態を想定し、これを国民に周知したうえで、最善を尽くすというのが原発事故の対策の基本だ。
 4号機の使用済み燃料プールが壊れ、放射能が放出され、他の使用済み燃料プールが連鎖的に壊れていったとき、強制移転地域は原発から半径170キロメートルとなる。そして、半径250キロメートルまで、移転が認められる。福島第一原発から皇居までは225キロメートルなので、首都圏がすっぽりふくまれる。つまり、日本壊滅の事態だ。これほど深刻な事故であったことを少なくない日本人が忘れている。慣れてしまうのは恐ろしいことだ。
 フランスも原発大国だが、フランスの地盤は安定していて、日本のような地震国ではない。政府も当初は原発は危険だというのを知っていた。しかし、「原子力は安全だ」と繰り返し言っているうちに、自分たちも信じ込んでしまった。原発の安全性について異論をゆるさない雰囲気があった。
 原発の建設には10年とか20年とか長い期間を要する。そして、原発は火力発電所がないと建てることができない。総括原価方式という料金体系は、一般の企業ではありえない。電力会社は、事業にかかわるすべての費用と「事業報酬」をあらかじめ電気料金のなかに組み込んでしまっている。
 大口の電力消費者向けには別の発電事業者と競合しているため、統括原価方式は使われていない。
 原子力だけが特別枠の優遇措置を受けている。政策費用を加えると、原子力は10.25円になる。これに対して火力は9.91円、水力は3.91円でしかない。つまり、政策費用を含めると、原子力はもっとも高い電源なのである。事故が起きる前からそうだった。そして、使用済核燃料の再処理費用は莫大である。
 たった数十年でためた核廃棄物を10万年先までの将来世代に押しつけてよいとは思えない。まことに同感です。こんなに無責任なことはないでしょう。
 電力会社は、九州電力をふくめて、電源として原発が必要だというより、自らの損を避けるために原発にしがみついている。
 こんなことって、許されるものではありませんよね。原発はやっぱり必要だという声がまだぞろじわりと増えつつあるようです。事態の深刻さをもっと私たちは認識すべきだと思います。ベトナムそしてトルコへ原発を輸出する動きがすすんでいます。とんでもないことです。
(2013年1月刊。1600円+税)

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